タワマンはさまざまな配送上の課題を抱えています
物流業界は人手不足に直面し、配達の担い手確保に悩む物流会社が悲鳴を上げている今、タワマンにおける「当たり前の便利さ」が、大きな岐路を迎えています。タワマンにおける宅配便配達の現状と課題をお伝えします。
建設が続くタワマンと拡大するEC市場
タワマンと呼ばれる超高層マンションの建設が続いています。不動産経済研究所が2024年5月8日に発表した「超高層マンション動向 2024」(※1)では、2024年以降に完成予定の超高層マンション(2024年3月末現在)は321棟、11万1645戸となっており、この数は2023年3月末時点の前回調査と比べると、93棟・1万5161戸増加しています。またEC市場も拡大しています。経済産業省が行った「令和5年度電子商取引に関する市場調査」(※2)によると、2023年の日本国内のBtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場規模は24兆8000億円となっており、2022年の22兆7000億円に対し9.23%増加しています。
超高層マンションの増加とEC市場の拡大によるタワマンの配送課題について、因果関係や相関関係を明示することは難しいですが、これまでとは異なる環境変化が起きているとはいえるのではないでしょうか。
宅配物をたった1個届けるにも、とにかく時間がかかるタワマン
都市部に増え続けるタワマンは、一見、多くの世帯が集中しているため、効率的な配送を行えるように思えます。しかし、実態は大きく異なっています。日鉄興和不動産が、大手物流会社に東京都内のタワマンの集配状況をヒアリングしたところ、次のような状況が明らかになりました。約50階・約1000戸のタワマンにおいて、1日当たりの配達が31件(宅配BOX含む)、集荷5件、不在5件の対応で合計225分を要したそうです。また、このうちの約3分の1にあたる75分がエレベーターの待ち時間と乗車時間に割かれていました。さらに、エレベーターの待ち時間と移動時間を含めたマンション内の移動時間の合計は、全体225分のうち、およそ半分を占めたそうです(※3)。
中には1つの荷物を配送するだけで30分を要するケースもあり、こうした時間がかかる原因の1つが「エレベーター」です。タワマンのエレベーターは居住者用と、清掃業者や宅配業者が利用する事業用・荷物用に明確に分かれています。そもそも数が少ない事業用や荷物用のエレベーターに台車や作業道具を持ち込む清掃業者や複数の宅配業者、さらに工事関係者が集中すれば、スペースも限られ、上下の移動もままなりません。事業用・荷物用のエレベーターといえど、タワマンでは一棟当たりの戸数が多い分、多くの人が利用しています。
さらにフードデリバリーなどの配達員や、ときにはペットを連れた居住者が事業用・荷物用エレベーターに乗り込んでくることも。ペットを連れた住民が乗っているときは、配送ドライバーは「お先にどうぞ」と、順番を譲らざるを得ないため、さらに待ち時間が増加します。
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