真偽は不明だが、娘の指摘は鋭い
夫は「とにかく、男女関係は一切ない。濡れ衣だ」とふてくされた。娘は、そんな父親を見ながら「大人の女が、関係もない既婚男の家まで来るかなあ。行っても排除されないという確信があるから来たんじゃないの?」とめちゃくちゃ鋭い質問を浴びせた。「驚きましたね、今どきの中学生。何とも論理的ですよね。思い込みが激しい女性だからと説明されれば私なんかは納得しちゃうけど、娘は社会人がそんなリスキーなことをするのか、論理を超えた感情の爆発があったんだろうというわけです。娘の考え方がすごすぎて、私は、ずっとぼうっとしていました」
もちろん、夫もしどろもどろだったが、「論理を無視するということは思い込みが激しいということだろ?」と娘を納得させようとした。だが娘は引かない。「思い込みじゃなくて、彼女にとっては気持ちが通じ合っているという強い背景があるからこそ来た、ということなんじゃないの?」と言いのけた。
「結局、夫が言えたのは『オレは何もしてない』ということだけ。娘は夫を横目で見て、黙って自室に入っていきました。夫は『ヤバいかな、ヤバいよね』と慌てていました。夫は娘の信頼を失ったら生きていけないほど娘を溺愛しているんです。そんな娘に軽蔑されるようなことをするわけはないだろと、今度は私に賛同を求めましたが、『そういう意味では、私は昔から、あなたを信用していない』と言ってやりました」
近隣や娘の友人からも「浮気」を疑われ始める
付き合っていた期間に、浮気疑惑は何度となくあったからだ。妊娠を機に結婚したが、娘が産まれるまで、夫はふらっと出かけて居場所がつかめなかったり未明に帰宅したりすることもあった。おそらく浮気だろうとツバキさんは踏んでいる。娘が産まれてからはおとなしくしていたようだが、最近は中学生の娘から少しずつ疎まれているのを感じていたはずだ。それが夫を浮気へと追い込んだのだろうか。「何もしてない。夫はそれ以外、何も言いません。元日には、娘を初詣に誘って断られていました。娘には『真偽が分からないから、今は制裁を加えるのは控えよう』と落ち着いて説得しました。『あの状況、お母さんだって見たでしょ。近所の人たちだってうわさしてるよ。友達からLINEが来たもん。お父さん浮気してるの?って』と、娘は嘆いていました。バカ父は困るよねって。あの年代の潔癖さを考えると、疑われるだけでもアウトなんだと分かりますね」
バカ父、バカ夫と呼ばれる夫も気の毒だが、それほどツバキさんと娘は、夫を大事に思っていたし信じてもいたのだろう。
「私は信じてはいなかったけど、信じたいとは思っていました。それに、例の彼女が本当に思い込みが激しいだけなら、メンタルが心配ですよね。あんな不安定な状態だったら、今後、仕事にも支障を来すんじゃないの、と夫にチクリと言ってやりました」
仕事が始まったため、「近いうち、ことの顛末(てんまつ)がはっきりするんじゃないかと思いますが、大晦日に既婚者の家を訪ねるような女性って、どうなのよと夫には言いたいです」と彼女は息巻くが、離婚の文字は浮かんでいないという。
「娘が産まれてからは、男女関係というより娘の親という感覚しかないので、家庭を破壊しなければある程度、好きにすればいいんじゃないのと思っているんです。とはいえ、娘が成人になったら、このままでいいのかと考えるようにはなると思う。今は、離婚を封印しているだけですから。夫は謝ったから、例の一件が浮気だろうとそうではなかろうと許されたと思っているでしょうけどね」
謝って許されるなら警察はいらないんだよと、ツバキさんは心の中で古典的なツッコミを入れたと苦笑いした。