「オレへの嫌味?」と感じる夫はどうかしてる
考えてみたら、夫とはいつしか気持ちがすれ違ったり誤解が生じたりしやすくなっていたとアユミさんは言う。子どもがいるから、共働きで忙しいからと、自分の気持ちに蓋をして見て見ぬふりを決め込んできた。「それに決定的なことはなかったんです。私は丈夫でめったに風邪ひとつひかないし、何かあっても夫の好物を作れば夫にも笑顔があった。今回は年末年始という家族で過ごせる貴重な時間に私が寝込んだことで、夫の不満も上がってしまったんだとは思う。それでも、あの言葉は許せなかった。たとえ私がもう熱が下がってお皿を洗っていたとしても、『大丈夫なの?』『ごめん、オレがうっかり寝ちゃったから。いいよ、やるよ』というのが当然じゃないでしょうか」
アユミさんはさっさと洗い物を終えると、再度熱を測った。39度を超えていた。体温計を夫の鼻先に突きつけてやったという。
「夫は、うわっと言って、『そんな熱があるのにどうして皿洗いしてるの』って。『オレへの嫌味?』とも言ったんです。その瞬間、私は夫を押しのけて寝室に戻りました。妙に興奮して、でも悲しくて涙がボロボロ出てきました」
「パパ、すぐ来て。ママがおかしい」
そこへ長男が水を持ってきてくれた。母親が泣いていることにうろたえて、「ママ、苦しいの?」と背中をさすってくれたので、アユミさんはさらに号泣。長男は「パパ、すぐ来て。ママがおかしい」と叫んだ。「夫は顔をのぞかせて、長男に『こっちに来なさい、うつるから』と。まあ、そこまでは分かるけど、『救急車呼ぶ?』って。必要ないと言いましたよ。私がほしいのは、いたわりの一言だったんですけどね。すると夫は何も言わずに“狭い書斎”へと去っていきました。まだドアのところにいる長男に『大丈夫だからね』と言うと、彼はニコッと笑って……」
あの笑顔を傷つけてはいけない。アユミさんはそう思ったそうだ。だが30日も熱は下がらず、とうとう休日診療をしている病院へ駆け込んだ。結果はインフルエンザだった。
「電車を乗り継いで1時間ほどのところに住んでいる妹に助けを求めました。妹はすぐに来て子どもたちだけ連れて行ってくれた。夫は『行くところないな』と言いながら家にいたようです。三が日は妹が食べ物を届けてくれました。すっかり熱は下がっていたので、寝室で食事をしながらテレビを見たりたまっていた録画を見たりとのんびりしていた。
4日には妹が子どもたちを連れてきてくれて、ついでにと食事まで作って行ってくれました。妹も子どもがいるのに本当に助かった。夫はあとから、『義妹ちゃんに怒られちゃったよ。こういう時にどうして姉を大事にしてくれないのかって』としれっと言うんですよ。悪かったねの一言もない」
夫はアユミさんが元気になると、機嫌がよくなった。一方のアユミさんは今でも、あの時の夫の言動がどうしても許せずにいる。これは遺恨が残るな、いずれ夫との間は完全にうまくいかなくなるだろうなという思いがずしりと心にのしかかっている。