64歳「1人で何が悪い」と開き直っているけれど
ずっと独身、夫なし子なし、親はいないし友だちだって多くはない。それの何がいけないのと半分開き直っているのは、ミナコさん(64歳)だ。「私、実は未婚のままシングルマザーになろうと思ったことがあるんです。大好きだった既婚の彼と付き合って妊娠したとき。20代後半でした。彼に黙って産むつもりだったんですが、結局は流産した。彼は気付いていたはずなのに何も言わなかったから、私も何も言わずに別れました。後から手紙が来て謝られたけど、彼への未練はなかったですね」
それでも、あの時産めていたら子どもは30代半ばになるなと考えることもある。考えても仕方ないのだが、仕方ないから考えてしまうと彼女は言った。
「現実を見なければいけないなと思って、還暦を過ぎたころから、今しか見ないと決めました。今は60歳までいた職場で嘱託として働いていますが、給料は激減、仕事内容は変わらず忙しいので、なんだかバカバカしいなとは思っています。でも働ける場があるだけいいのかもしれない」
病気を克服、ただ「長生きしてどうする」とも
50代でがんを患ったが今はほぼ完治し、定期的に検査に通うだけで済んでいる。せっかく病を克服したのだから、長生きしてやると思っているが、たまに「長生きしてどうするんだろう」と思うこともあると苦笑した。「数は多くないけど、いい友だちはいます。でも彼女には家族がいるから、私のことで迷惑はかけられない。友だちなんだから甘えてよと言われても、なかなか人を頼ることはできません。やっぱり他人に頼られたら迷惑ですよ、きっと」
病気の時も1人で入院し、1人で退院したが、特に寂しくはなかった。むしろ、誰にも迷惑をかけなくてよかったと思った。その後は仕事で同僚に迷惑をかけたこともあるが、元気になってからはがむしゃらに働いた。そのため、チームリーダーとして嘱託ながら会社から慰留された。
「まあ、今までも1人だったのだから、これからも淡々と1人で生きていくしかないですよね。元気なうちは友達にも会いたい。今後は地域で似たような境遇の友達を作ることも視野に入れようと思っています。地域で繋がっていると、何かにつけてお互いに心強いから」
年をとれば心も体も衰えていく。それは受け入れるしかないが、「まだ覚悟はできていない」とミナコさんは言う。
「後期高齢者でも結構元気な人が多いですからね。80歳くらいにならないと、本当の“老い”には直面できないのかもしれない。それが果たして、私のような単身高齢者にとって幸せなことなのかどうか分かりませんが。生きているのか死んでいるのか分からないようなことになったらどうしようとそれが恐怖です」
死ねないけど、元気にも生きられない。そんな状態が怖いのは、誰も同じかもしれない。
<参考>
・国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(都道府県別推計)」(2024年推計)