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女手一つで育ててきた娘が、結婚後に変わってしまった
離婚して、心の支えだった娘
「短大を出て就職、25歳のときにデキ婚しました。ところが妊娠中から、夫は帰宅しなくなり、結局、生まれた娘の顔を見ることなく離婚。前から付き合っている人がいたみたいです。だったら結婚しなくてもよかったのに、妊娠が分かったから結婚するしかないと思ったようですね、夫は」チナミさん(55歳)はそう振り返った。仕事はやめていなかったから、産後、育休はとらずに働き続けた。だが、実家からは勘当同然での結婚だったから、離婚後も頼ることはできなかった。行政に相談して、地域の保育ママ制度などをめいっぱい利用し、時には近所の人に助けてもらいながら頑張っていた。
「古いアパートに娘と2人で越したんですが、大家さん始め、住んでいる人達が本当に助けてくれました。人情あふれるアパートだったからこそ、なんとかなったんだと思います」
経済的には苦労続きだったが、娘はよくできた子で高校まで公立、大学は国立へと進学してくれた。
「娘とは本当に仲がよかった。娘も『私の親友はママ』と公言していました。彼女が大学に入ってからはふたりでよく旅行もしました。アルバイトのお金をためてハワイに連れていってくれたときは涙が出るほどありがたいと思った。就職したときも『育ててくれてありがとう。これからは私がママを楽にしてあげる』って言って」
娘の結婚を願うべきだと言い聞かせた
チナミさんの目が潤んだ。彼女にとって、娘はこの世でたった1人の家族であり、心の支えだったのだ。「正直いって、結婚なんかしないでずっとふたりで暮らしていきたかった。でも一方で、それは私のエゴだということもわかっていた。子どもは巣立たせてやらないといけない。分かっていました」
だから5年前、娘が結婚したい相手がいると言ったときも反対はしなかった。娘の幸せを願うのが親の務めだと自分に言い聞かせた。
娘は、近くに住んではくれた
娘が連れてきたのは、同い年の好青年だった。「お義母さんが2人になったら寂しいでしょうから、近くに住むようにしますと言ってくれたんです。いい子だねと娘の幸せを喜びましたが、寂しいと思う気持ちも半端じゃなかった」
あとからチナミさんは、娘の結婚相手が一流企業に勤めていること、実家も資産家であることを知った。家柄が釣り合わない、大丈夫なのだろうかと心配になったという。
「結婚前に相手のご両親と顔合わせをした時、ぶっちゃけて正直に話したんですよ。うちは母子家庭で財産も何もない。お宅のような家と付き合える家柄でもない。娘が肩身の狭い思いをするのではないかと不安だ、と。すると先方が『家柄なんてうちにもない。関係ありません、2人がよければそれでいい』と。立派なご両親なんだと心から安心しました」
相手もひとりっ子だったため、新居はお互いの実家の中間地点にしたと報告があった。新婚家庭に行くつもりもなかったが、比較的近くにいるということだけでチナミさんはホッとしていたそうだ。
「ママの衛生観念のなさにあきれる」
「娘のところにも子どもが産まれて、ときどき手伝いに行くようになりました。とはいえ、私は仕事があるので、休暇をとったり週末に行ったり。ただ、娘がいちいち文句を言うようになったんですよ。『ママは衛生観念がなってない』って。赤ちゃんがかわいいから、つい顔を近づけると『子どもに頬ずりしないで』というし、掃除をすると『全然、きれいになってない』と。先日は子どもの指が汚れていたので、ちょっと台布巾で拭いたら、それで拭かないでと大きな声を出してきて。あんまり神経質になりすぎてもよくないよと言うと、『ママの衛生観念のなさにはあきれてる』と言われました。娘の夫が『気にしないで』と言ってくれたけど、『お義母さんのほうがずっと気をつけてくれてる』『お義母さんは頼りになる』と娘に言われてへこみました」
たったひとりで心身をすり減らして大きくした娘なのに、あんなに仲のよかった娘なのに、今ではすっかり婚家の価値観に染まっている。自分はめいっぱい頑張ってきたが、それでも世間の水準より低い価値の中で生きてきたのだろうと思うと、娘に申し訳ないやら腹が立つやら複雑な心境だと、チナミさんはまた目頭を押さえた。
母として娘に認められてはいた。その娘が母となって、彼女なりにまた新たな価値観を身につけたのだと思うしかないのではないか。チナミさんは間違ってはいない。
「娘は『お義母さんのことを妬んでる?』と聞いてきました。妬んでなどいない、変わってしまったあなたが悲しいだけと言ったけど、娘は自分が変わったとは思っていないみたいで……。いつまでも娘にしがみついている私がいけないんでしょうけどね」
娘にとって、母はいつまでも母である。子どもが大きくなれば、また母に寄り添う気持ちが出てくるはず。母は鷹揚に構えて待つしかないのかもしれない。