夕食に出てきたのはパック寿司
夕方になり、義姉は「ごはん食べていってね」とキッチンに立った。出てきたのは、スーパーで買ったらしいお寿司。しかもパックのままだ。さすがに夫がけげんな顔をした。「おねえちゃん、料理しないの? と夫はストレートに尋ねました。すると義姉は『うちはもう、それぞれが勝手に食事をするのよ。あ、お寿司じゃない方がよかった?』って。ずっとこういう感じなのと夫が聞くと、『下の子が中学生になったころからかな。その前は夫の母が同居していたから、全部やってくれていたのよ。私も仕事が忙しかったし』と。
おねえちゃんの料理、おいしかった記憶があるんだけどと夫が言うと、『おばあちゃんが亡くなってから、うちの家族は個食が好きみたい』って。なんだか少し寂しそうだったから、スーパーのお寿司をおいしくいただきました」
「個食」ばかりの食スタイルに違和感
まだ高校生の子がいるのに、家族それぞれが好きなものを買ってきて食べるというスタイルはどうなのかなあと、アミさんは考えながら食べていたという。「うちも共働きですが、基本的に作り置きをしたり冷凍食品を使ったりしながらも、家族で同じものを食べています。栄養のこともあるので、私は子どもたちが社会人になるまではちゃんとごはんを作ろうと思いましたね。ただ、全員がいや、好きなものを買ってきて食べると言ったら、どうしようもないけど……」
そんなスタイルに慣れているとはいえ、少なくとも弟一家という「お客さん」に、スーパーの寿司とインスタント味噌汁はどうなのかと、やはりアミさんは納得がいかなかった。
「あとから夫に聞いたところによると、義姉はまったく食べ物に興味がなくなっているようだったそうです。昔は弟に食べさせたいと頑張ってくれたんでしょう。もともとは食べるものなど何でもいいというタイプなのかもしれません。お客さんとはいえ、自分の弟だから、身内の気楽さであのお寿司だったのかもしれない、と夫は自分に言い聞かせるようにつぶやいていました。夫がちょっと気の毒でしたが」
夜になって大学生の娘や高校生の息子が帰ってきた。あいさつをしてキッチンの方で、それぞれが買ってきたものを食べている様子だった。
「お寿司の残りがあるよと義姉が言うと、息子が喜んで食べていましたね。家庭内が不和というわけでもなさそう」
最後までお持たせのケーキが供されることはなかったが、帰りには車を取り囲んで3人が「また来てね」と笑顔だった。
「義姉一家が幸せならそれでいいんですけど……」
最後までアミさんはどこか腑(ふ)に落ちない顔をしていた。