「愛人兼ホステス要員扱い」の会社役員
ブラック企業で働いていたマリさん(35歳)が、時々行くようになったバーで顔なじみになったのがサトルさん。当時、彼女は30歳、彼は50歳を越えたところだった。「私の仕事の愚痴も聞いてくれるようになり、彼なりに私の職場のことも調べてくれたりしたんです。知り合って半年ほどたったころ、酔いも手伝って彼とホテルに行っちゃったんです。そんな年上の人と、しかも不倫なんて……と思ったんだけど、関係を持ったらどんどん彼に惹かれるようになって」
彼は美術や芸術に詳しかった。マリさんはたいてい土曜日も出社して仕事をしていたが、彼から「これから美術館に行こう」と電話がかかってくる。仕事そっちのけで彼の元へ駆けつけたこともある。言われるがままに残業ばかりしても、ろくに残業代も入らなくて、そんな日常に嫌気がさしていた。法的に許されないから労働基準局に訴えたほうがいいと彼に言われていたが、そのうち「そこを辞めてうちに来ないか」と言われるようになった。
「そこで初めて、彼がある中堅企業の役員だと知りました。転職はしたかったけど、彼の誘いというのがちょっとひっかかった。でも背に腹は代えられない。そのブラック企業をとにかく辞めたかった」
その後、彼の勤務先で簡単な面接を受けて転職した。彼女は営業職を望んでいたが、仕事は彼の「秘書」だった。
「秘書の仕事なんてしたこともないし、そもそも彼には秘書がいます。第二秘書みたいになったけど、仕事といえば彼の接待についていくこと。もとからいた秘書にしてみれば、私が愛人だと分かっていたでしょうね。会社が針のむしろみたいでした」
「1日中、一緒にいたいから引き抜いた」
彼に他の仕事をさせてほしいと頼むと、「僕は1日中、きみと一緒にいたい。だから引き抜いたんだ。そもそもきみは僕の私設秘書なんだから」と言った。つまり、彼が個人的に給与を払って彼女を雇うという雇用形態になっていたのだ。「愛人のお手当ですよね。しかも正しい愛人なら家を与えられて働かなくていいのに、私の場合は出社して恥さらしみたいに彼のそばにいるだけ。接待ではお酌させられて彼の愛人兼社外の人向けのホステス要員みたいなもの。ブラック企業よりひどいかもと思いました」
彼に悪気がないのが解せなかった。とにかくペットのように自分のそばに置いておきたかったのだろう。1年もたたずに彼女は、会社も不倫も自ら辞した。
>次は嫉妬深く支配欲が強い実業家の話