adidasの逆襲を生んだ特許技術の総結集
6区で驚異的な区間新記録を出し大会MVPにも選ばれた野村選手をはじめ、今回多くのランナーが履いていた「ADIZERO ADIOS PRO 4」は、adidasのアッパーやクッション素材に関するさまざまな特許技術が用いられていると考えられますが、なかでも現在adidasが特許出願中の出願番号「2023-110277」の技術が中核になっているのではと考えられます。この出願番号「2023-110277」の技術は、主に以下のような特徴があります。
1:前足部から中足部にかけて、5本骨状カーボンバーがソールに組み込まれている
2:ランニング中にぐっと踏み込んだ際、5本骨状カーボンバーが踏み込んだ力により屈曲する
3:5本骨状カーボンバーの親指部分と中指部分は、剛性を高めることで踏み込んだときに力を溜め込めるようになっている
4:ソールのかかと部分に負荷分散材(カーボンファイバーなど)が組み込まれている
この5本骨状カーボンバーは、公開特許公報における図では以下のように示されています。
「ADIZERO ADIOS PRO 4」の5本骨状カーボンバーはソールに組み込まれている ※画像出典:特許情報プラットフォーム
その他にも、この5本骨状カーボンバーはランナーにとってさまざまなメリットをもたらす効果があるのですが、改良を重ねてこの形にたどり着いたといえるでしょう。
5本骨状カーボンバー自体は、2020年6月にadidasがNIKEの厚底シューズに対抗して発売した初代ADIOS PROにも組み込まれていたものでした。しかし、筆者もこの初代ADIOS PROを持っているのですが、このシューズは走っていて少々違和感を覚えるような作りで、タイムもあまり出せるものではありませんでした。
それゆえに、その頃はNIKEのシェアを脅かすことができなかったのですが、その後、この5本骨状カーボンバーは改良が重ねられ、より負荷なく自然に走れるよう、より推進力を生み出せるようになって今の形になり、それが組み込まれたADIOS PRO 4ができて、今回多くの箱根駅伝ランナーが履くようになりました。
何年もかけて改良を重ねるという、執念ともいえるこうした特許技術の積み重ねがあって、adidasのシューズが今回の箱根駅伝でシェア1位になったのだと思います。
しかし、NIKEもこのまま黙ってはいないでしょう。今回、まだ販売開始前の「ヴェイパーフライ ネクスト%4 プロトタイプ」を一部選手に提供し、実際にこれを履いて走った中央大学の1区の吉居選手、そして青山学院大学の5区の若林選手はいずれも区間賞を取っています。このシューズもおそらく新たな特許技術が用いられているのだと思います。
箱根駅伝のシューズ事情の裏側で、このように各社シェアを伸ばすために特許技術を有効に活用していく“特許戦略”が取られていたりするのです。来年の箱根駅伝ではどのようなシューズが出てくるのか、今から楽しみです。
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