前回大会までは、NIKEの厚底シューズを履くランナーが圧倒的に多かったのですが、今回は、adidasの厚底シューズを履くランナーが最も多くなりました。
優勝した青山学院大学のランナーも、5区以外はすべてadidasの厚底シューズを履いており、2区で区間新記録を出した黒田選手、4区で区間賞の太田選手は「ADIZERO ADIOS PRO EVO 1」を、6区で区間新記録を出した野村選手、8区で区間賞の塩出選手は「ADIZERO ADIOS PRO 4」を履いて走っていました。
その他エース区間の2区では、区間新記録を出した東京国際大学のエティーリ選手を含め、テレビで確認できる限り半数以上のランナーがadidasの厚底シューズを履いているという状況でした。
なぜ今回、これほどまでにadidasの厚底シューズを履くランナーが多かったのか。これを語る上で、まずは前回大会までNIKEの厚底シューズが圧倒的なシェアを誇っていた理由について解説します。
厚底シューズ旋風を生み出したNIKEの特許技術
今では厚底シューズが当たり前になりましたが、それまでは薄底シューズを履くランナーが比較的多く、箱根駅伝も同じ状況でした。そのような中、2019年7月にNIKEが販売した「ヴェイパーフライ ネクスト%」が状況を一変させます。
このシューズがすごすぎました。このシューズは、NIKEが特許を取得している特許番号「6076481号」「6786595号」などの特許技術をもとに作られたシューズであり、主に以下のような特徴を有しています。
1:靴のソールが、ウレタン素材のソールでカーボンプレートを挟み込む構造になっている
2:かかと側に、小型のエアソール(空気の入ったクッション)を組み込んでいる
3:ソールの形状が前足部にかけて大きく湾曲している
これらの特徴は、実際の特許文献(特許番号6786595号)では、以下のような図で表されています。
ヴェイパーフライ ネクスト%のソール構造 ※画像出典:特許情報プラットフォーム
上記の特徴1と2により反発性とクッション性を実現し、特徴3によって走っているときにシューズが前に傾くような感じで足が勝手に前に出るような効果を生み出しています。実際にこの特許文献の中でも、ソールの形状を前足部にかけて大きく湾曲させることの効果として、「足の回転を速めることができる」と記載されています。
これはとても革新的なシューズでした。“足が勝手に前に出るような走りができる”という今までにない特性により、このシューズを履くことでプロランナーの世界ではエリウド・キプチョゲ選手によってマラソンの世界記録が大幅に更新され、日本でも多数の市民ランナーがこのシューズで自己ベストを更新しました。
筆者もこの「ヴェイパーフライ ネクスト%」を履いて走った2019年11月のフルマラソンで、当時の自己ベストを大きく更新する2時間36分というタイムを出すことができました。
こうした世界や日本のランナーの流れを受けて、その後の2020年1月の第96回箱根駅伝では、90%近くのランナーがこのNIKEの「ヴェイパーフライ ネクスト%」を履いて走るという異様な状態となりました。
NIKEのこの厚底シューズは上記のような特許技術によって作られているものなので、他社がこうしたNIKEの特許技術を回避し、かつNIKEの厚底シューズと同等以上のシューズを開発するには一定の時間がかかります。したがって、その後の箱根駅伝でもNIKEの厚底シューズを履いて走るランナーが圧倒的多数という状況が続いていました。
そのような中で、今年の箱根駅伝ではadidasの厚底シューズがNIKEの厚底シューズを上回り、全シューズメーカーの中でもシェア1位となったのです。
なぜadidasの厚底シューズがここにきて躍進してきたのか。それもやはり、特許技術の賜物(たまもの)だと考えます。
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