「やった感」を示すためだけの掃除機がけ
「うちは完全フルタイムの共働き。それなのに夕飯作りは私の役目と決まっているんです。夫がする家事はゴミ出しですが、住んでいるマンションが24時間ゴミ出し可能なので、それほどありがたいわけでもない。あとは年に数回の掃除と窓拭きですかね。そのくらいですよ、してくれるのは」クミさん(48歳)はそう言ってため息をつく。掃除だって掃除機をかけるだけ。リビングの隅までは行き届いていない。あとからクミさんがこっそり部屋の隅を掃除する。もともとクミさんが掃除はしているから、夫が掃除機をかけるのは「やった感」を示すためでしかない。
「それなのに夫は定時であがり、私が残業という時は、前日から大きなため息をつくんです。『あー、明日のごはん、どうしようかなあ』って。大学生のひとり息子は賄い付きのアルバイトをしているからあてにはならない。夫があまりにもため息をつくから、先日、私は早朝に起きて夫のためのおかずを作りおいて出かけたんです」
作り置きのおかずに手をつけない理由
これは電子レンジで温めて、こっちは鍋を火にかけて沸騰してから食べてと細かくメモもつけた。ごはんは夫が帰ってくる時間に炊けるようタイマーをかけた。「それなのに帰ってきたら、おかずは手つかずのまま。どうしたのと言ったら、レトルトカレーで食べたと。だったら私があんな忙しい思いをして作る必要なんてなかったじゃないと言ったら、『オレ、頼んだ?』と。これって完全に嫌がらせというかモラハラですよね。あなたがあんなにおかずどうしようってため息をつくから作って行ったのに、人の気持ちを考えなさいよと怒鳴ってしまいました」
夫は「別に何を食べたっていいじゃん」とぶつぶつ言っていたが、今回のクミさんの怒りは半端ではない。
「私の好意を煽(あお)るように、あるいは圧をかけるように哀れぶっておきながら、結局、人の苦労を想像もしていない。それが腹立たしくてしかたがないんです」
息子に愚痴を言うと、「お母さんの愛情を試したかったんじゃない?」と言われたそうだ。愛情を試すなんて大人のやることではないと、クミさんはさらに怒りを抑えられなくなるほどだった。
夫のために録画しておいたのに
人が自分のために何かをしてくれるのはうれしいことだ。結婚前の彼は何かするといつも喜んでくれた。それが彼の心から望むことでなかったとしても「僕のことを考えてくれたことがうれしい」と言ってくれたものだった。そんな話をしてくれたのはサチコさん(40歳)だ。「私は世話焼きタイプで、彼は世話を焼かれるのがうれしいタイプ。だからうまくいっていると周りにも言われていました。付き合って4年、29歳の時に結婚しました。でも最近、夫は世話を焼かれるのが好きじゃなくなったみたいで……」
以前、夫がある俳優の名前を出して「いいよね、この人」と言った。夫の仕事は芸能界にも関係があるので、それならとサチコさんは彼女の名前を見つけるとテレビ番組を録画するようにしていた。
「ある時、夫が、自分が予約したはずの番組が入ってないと言い出して。調べてみたら、私が録画したその俳優の番組でハードディスクがいっぱいになっていた。前に気になるっていってたから録画しておいたと言うと、『よけいなことしないでいいから』と冷たい返答。せっかく仕事の参考資料を予約したのにとぶつぶつ文句を言われました。『配信で見ることができたからよかったけど、頼んでもいないことしないでよ』とまで。こっちの好意をなんだと思ってるんだと私もムカッとして」
世話焼き妻をうっとうしく感じる夫
世話を焼かれるのが好きだったはずの夫が、妻のことをうっとうしく思い始めているのかもしれない。なんだか気になって、後日、夫にそういう話をぶつけてみた。「そうしたら『サチコの、“あなたのためにこんなことまでしたのに”という態度が実は嫌だった。重いしうっとうしい』と言われました。それが愛なのにと言うと、もうちょっとさらっとできないかなって。“さらっと”ってどういうことなのか私にはわからなくて。
わかった、もうあなたの面倒は見ないねと言ってから約1カ月、食事や洗濯などの家庭生活以外の夫のことは、ほぼ何もしていません。靴磨きや服のコーディネート、義父母への日常的な連絡など、いろいろやっていたんですがやめました。でも夫が案外、生き生きと楽しそうなんです。今まで私がしてきたことは何だったんだろうと虚しさを感じています」
夫婦の関係は年月がたてば変わっていくものなのかもしれない。世話を焼かれるのが好きだった夫が、自らの意志で自分のことを決められるようになったのなら、それはそれでよしとしてもいいのではないか。だがサチコさんは「私の存在意義がなくなるみたいでつらい」と訴えている。