便利なデジタルデバイスだが……
これまで何千人という子育て中の親御さんとお話ししてきましたが、その中にはご自身が勉強が苦手で、子どもに教えてあげられないことに申し訳なさを感じている方が少なからずいらっしゃいました。昔に比べて子どもの教育への意識が高まり、プレッシャーを感じてしまう方も少なくないようです。 そんな親御さんたちにとっての強い味方がスマートフォンやタブレットなどのデジタルデバイスです。分からないことがあっても、インターネットで検索をすれば一瞬で答えが出てきます。専門的な知識を解説してくれているページも山ほど見つかります。便利な時代になりましたね。ただし、デジタルデバイスで調べたことは“忘れやすい”ことが知られているので工夫も必要です。
「デジタル健忘症」に注意!
ほんの半世紀前の時代であれば、「頭のよい人」とはさまざまなことを知っている人でした。何かを調べようと思ったら、図書館にでも行って膨大な本の中から知りたいことを調べ出す必要がありました。その労力はとんでもないもので、さまざまな知識を頭の中に持っていることには大きな価値があったのです。しかし、今や時代は変わりました。こんな時代の子育てで必要なことは、知識を教えること以上に、分からないことの調べ方を教えることではないかと思います。ですから、自分が知らないこと、自分の力で教えてあげられないことに引け目を感じる必要はありません。
子どもに聞かれたことが分からなかったときは、親にとってピンチではなく大チャンスです。調べるところを見せてあげて、分からないことにどう対処すればよいのか、お手本を示してあげましょう。
ただし、気をつけてほしいことがあります。それは「デジタル健忘症」です。インターネットで検索して簡単に得た情報は、すぐに忘れてしまう傾向があることが明らかになっています。これは別名「グーグル効果」とも呼ばれます。その原因は、簡単に調べて分かることは覚えておく必要はないと、私たちの脳が無意識に判断してしまうからではないかとされています。
脳トレで有名な東北大学の川島教授のチームが行った実験によると、知らない言葉の意味をスマートフォンで検索した場合と紙の辞書で調べた場合とを比較すると、前者の場合は脳があまり活動しておらず、後者の場合の方が活発に動いていたという違いもあったそうです。その後、抜き打ちでテストを行ったところ、紙の辞書で調べた言葉は5個中2個の意味を覚えていましたが、スマートフォンで検索した言葉は6個中1つも覚えていなかったそうです。
せっかく調べたことをすぐに忘れてしまうのはもったいないですよね。
デジタル健忘症を避けるための工夫
どうすればデジタル健忘症を避けることができるのでしょうか?まず方法の1つ目としては、なるべく子ども本人には紙の図鑑や辞書を使わせるとよいでしょう。デジタルデバイスに比べると、紙の図鑑や辞書を使うのは時間がかかって面倒に感じてしまう場合もあります。どうすれば面倒くさいではなく、楽しいと感じられるようにするか、工夫ができるとよいですね。例えば、調べたところに付せんを貼っていき、それがどんどん増えていくのを楽しむといったやり方をしてみるのもおすすめです。
2つ目の方法としては、「調べた内容を覚えておかないとできないこと」をするとよいでしょう。家にある図鑑や辞書にのっていなくてどうしても検索して調べなければいけないとか、動画メディアで解説を見たいという場合などにこのやり方がおすすめです。例えば、分かったことをノートにまとめるとか、親に説明してもらうとか、あとでクイズをするとかです。
まずはお子さんと一緒に分からないことを調べる習慣をつくり、次に調べたことを忘れていないか確認する習慣をつくってくださいね。