私も面倒だと思っていたけれど
離婚は面倒だが、その面倒を超えるほどのことがあれば、女性たちは一気に力を発揮することになる。「職場結婚だったんですが、結婚してから私に対する夫の暴言がひどかったんです。何かというと『おまえは頭が悪い』『脳を使え』って。でも実は私の方が有名な大学を出ているし、仕事でも重要な立場にいた。それがしゃくだったんでしょうね。だから結婚という形におさまって、簡単には別れないと思ったからか、急に暴言を吐くようになった」
ユキさん(40歳)はそう言って振り返った。同僚だった彼と結婚したのは30歳の時。冗談が好きで一緒にいると笑ってばかりだった「仲間」の彼だが、結婚してから「夫」として威張るようになっていった。
「今まで通りの関係でよかったのに、なぜか彼はきちんとした夫になろうといらない努力を始めてしまって。夫が考える『きちんとした夫』の中身って、妻を服従させるということだったみたいです。今の時代、何を考えているんだろうと思ったけど、そういうのは彼の心に刷り込まれた軸みたいなものでした。単なる友達なら対等だけど、夫婦は対等ではないと思っていたようです。結婚前にはわからなかったことでした」
「きちんとした夫」とは?
彼の実家に行ってみると、義父は縦の物を横にもしない。義母はそんな夫の言いなりで、まったく自分の意見を言わなかった。ユキさんの夫も、それが「いい夫婦」だと思って育ったのだろう。「離婚を考え始めた時、妊娠に気づいて。離婚は産後、考えようと思いました。ただ、私の妊娠中も夫は『病気じゃないんだから、今まで通りメシくらい作るのが当然じゃない?』って。つわりと闘いながら仕事もして家事もやってという生活で、安定期に入ったころ倒れました。医師には過労だと言われた。
医師から夫にも言ってもらったんです。家の中のこともやってください、このままじゃ奥さんの体がもちませんよって。そうしたら夫は『もっと丈夫な人だと思ったんですが』と答えて、医師にあきれられていました」
結局、ユキさんの気持ちは出産までもたなかった。夫とこれ以上一緒にいたら、自分が壊れてしまうと感じたからだ。妊娠後期に離婚を決めるのは、これ以上ない「面倒」だったが、それでも離婚しなければ人生が始まらないとさえ思いつめていたという。
「本気で離婚したかったら、この夫から離れたいと思うなら、“面倒”なんて超えますね。自分の心身に危機感を覚えたら、それ以上、我慢しないほうがいいと私は思います」
面倒だから離婚はしない。そう思えるうちは「まだ大丈夫」なのかもしれない。