褒められてハシゴをはずされる経験
「以前、褒められたあげくに潰された経験があるんです」ユキナさん(27歳)はそう言った。新卒で就職した5年前、ユキナさんと同期の社員は10人ほどいた。研修期間は楽しかったが、それ以降は何かと同期と比較される日々。「今思えばブラックだった」というが、そのころは頑張らなければと毎日気が張っていたという。
「同期が営業成績を上げれば、きみたちも頑張れと叱咤(しった)される。私はもともと体育会系で負けず嫌いだから、その言葉に乗せられて無理をしました。1年半後には成績トップとなり、朝礼で毎日、褒められていたんです。同期はすでに半分近くがやめていたけど、私は2年目にしてチームリーダーを任され、褒めそやされて自分でも『私はできるんだ』と思い始めていた」
突然ハシゴを外されて、憐みの視線を浴びるように
その後、1年下に異常なほど成績を上げる後輩が現れた。今度は彼がみんなの前で褒められ、ユキナさんは「それに比べておまえは」と言われるようになった。「女性初、20代初の部長の座も近いなんて言われていたのに、今度はその後輩が持ち上げられて……。会社ってそういうものなんだと身に染みました」
あの頃の勢いはどうしたと上司に揶揄され、同僚からは憐れみの目で見られることもあった。プレッシャーにさいなまれてつぶれかけたとき、成績優秀な後輩が会社を辞めた。彼が先につぶれたのだ。
「その後、私もすぐにやめました。今は転職して穏やかな気持ちで仕事をしています。切磋琢磨という名の下に、社員を競わせてプレッシャーをかけまくる体質の企業で仕事をするのは本当につらいです。あの経験があるから、私も特に職場において『人前で褒める』のは、よくないと思っています」
今でもときどき、成績が思ったように上がらずに苦しんでいる夢を見ることがあるとユキナさんは言った。
「なんとかメンタルが崩壊する前にやめることができたからよかったけど、そうでなかったら確実に私、仕事ができない状態に追い込まれていたと思う。褒めるって、その後の対応も考えると、そう簡単にしていいことではないのかもしれません」
そんな意図が透けて見えるからこそ、「人前で褒められたくない」と思うZ世代が増えているのかもしれない。
<参考>
・「Z世代の承認欲求に関する意識調査」(SHIBUYA109.Lab)