彼の気持ちが遠のき、別の女性の気配が?
1年ほど経つと、彼の気持ちが潮を引くように遠のいていくのをルリコさんは感じていた。彼を引き止めたかった。「なりふりかまわず、彼にプレゼント攻撃して、わざと大事な仕事を彼にやらせることにして裏で私がうまくやって彼の手柄にしてあげたり。彼の心が離れていかないように必死でした。でも何をやっても、ダメなときはダメなんですよね」
彼は、彼女の夫にバレるのを恐れただけではなく、同世代の気になる女性ができたらしい。それが誰なのか、ルリコさんは必死で探った。どうやら同じ職場らしいとわかったとき、彼女はその女性を呼び出して、必要以上に仕事のダメ出しをした。
「彼女が私を嫌って会社を辞めてくれれば、彼は私に戻ってくるんじゃないかと思ったんです。あのときの心理状態って、ほんとうに変でした。自分でも何をしているのかわからないくらい。バカですよね、私」
公私とも行動がエスカレート、警察沙汰に
退社する彼を待ち伏せ、食事に誘った。彼は「今日は実家に帰らないといけない」とか「学生時代の友だちと会う」とか言い訳をして去っていく。彼女は泣きながらあとを追ったこともある。「いよいよ彼の気持ちがもう私にないとわかってからは、毎日、何度もメッセージを送ったり、ひとり暮らしの部屋の前で待っていたり。夫だって娘だっておかしいと思ったんでしょう、大丈夫かと毎日のように聞かれました」
年下彼もほとほと困ったのだろう。とうとう上司に相談した。ルリコさんも信頼していた上司だった。上司は彼女を呼び、事情を聞きたいと言ってくれた。
「今なら間に合う。悪いようにはしないから、彼とは仕事だけの関係に戻りなさいと言ってくれた。それなのに私は諦めがつかず、さらに彼を追いつめて、朝から家に迎えに行ったりしてしまった」
ついに警察に呼び出された。彼が警察に相談したのだ。上司と相談の上だった。そこでルリコさんはようやく目が覚めたという。
「彼の気持ちが云々という前に、夫と娘に知られたくないとまず思ったんです。家族を失うかもしれない恐怖感でパニックになりました」
結局、彼女は心身のストレスということで退職した。それなりにキャリアを積んできたのに、どうしてあんなことになったのか。今となっては後悔しかないという。
「何も知らない夫と娘は心配してくれて……。ただ、あれほどの恋愛感情に振り回された自分の気持ちは、なかなか分析できなかった。心療内科にかかってカウンセリングも受けたけど、魔が差したとしか思えないんです。
彼がきちんと別れ話をしてくれれば、あんな態度には出なかったのかもしれないと思っていたけど、いや、やっぱりどうなっていても、私はあんな行動をとったかもしれない。うまく整理はできないけど、恋する気持ちを自分で受け止められなかったんでしょうね」
それでもようやく去年からパートで仕事を始めることができた。恋は怖い。自分を失ってしまうから。彼女はそう語ってくれた。
大人だから「器用な恋」ができるとは限らない。恋する気持ちは、時にその本人の心まで飲み込み、乱してしまうのかもしれない。