柿の渋抜き。渋みの原因の「タンニン」は消えないのに、なぜ甘くなる?
晩秋になると橙色に熟し、食卓を彩ってくれるおいしい果物といえば……そう、「柿」ですね。昔話の「さるかに合戦」で、いじわるなサルが独り占めしようとしたくらい、甘くておいしい柿の実ですが、未熟な柿や、一般に「渋柿」と言われる品種の柿は、ある程度熟しても、食べると独特な渋みがあります。柿の渋みの正体と、渋みをなくす方法について解説します。
<目次>
- 渋柿とは……渋みの正体は「タンニン」(カキタンニン)
- 「渋抜き」をしてもタンニンは消えない? 渋柿を干すと甘くなるのはなぜか
- 干し柿よりも簡単! なぜ焼酎につけると「渋抜き」ができるのか
- さらに簡単! レンジを使った渋抜きの方法とは
渋柿とは……渋みの正体は「タンニン」(カキタンニン)
この渋みの元となる成分は「タンニン」と総称される化合物です。柿に含まれるタンニンは、特に「カキタンニン」とも呼ばれ、お茶に含まれることで知られるポリフェノールの一種であるカテキン類がいくつか結びついてできた分子です。渋柿に含まれるタンニンは、比較的水に溶けやすい性質があります。専門的には「収れん作用」と言いますが、このタンニンは口の中に入れると溶け出し、舌や口腔粘膜のタンパク質に結合して変性させ、「渋い」という感覚を生じさせます。「渋み」は、「渋“味”」と表記されることもありますが、生理学的には味覚ではなく、どちらかというと触覚に近い感覚なので、「渋“み”」と書くのが正しいです。
「渋抜き」をしてもタンニンは消えない? 渋柿を干すと甘くなるのはなぜか
渋柿をおいしく食べる方法として、紐でつるして屋外に二週間くらい干して「干し柿」にする方法がよく知られています。一般に「渋抜き」と呼ばれる過程です。言葉から、「干すことで、渋みの元がなくなる(抜くことができる)」と思っている方も多いかもしれませんが、実は、干し柿にしても渋みの元であるタンニンはなくなりません。実は渋柿は、渋みが強いために甘さを感じにくいのですが、甘柿よりも、多くの糖分を含んでいます。干している間に、元々含まれていた糖分はアルコールになり、そのアルコールはアセトアルデヒドに変化していきます。そして、アセトアルデヒドは「架橋」の役割を果たして、複数のタンニンを結びつけ、分子量が大きく水に溶けにくい形へと変化させるのです。
水に溶けにくくなったタンニンは、口の中に広がりませんので、「渋み」が生じなくなるというわけです。
干し柿よりも簡単! なぜ焼酎につけると「渋抜き」ができるのか
「干し柿」にするよりも手軽に渋みをなくすことができる方法として、「焼酎を使う」方法もよく知られています。お皿に焼酎を入れ、渋柿を皮をむかずに、ヘタの部分だけをチョンと焼酎につけます。あとはビニール袋に入れて閉じ、日の当たらないところに何日か置いておくだけです。なぜ焼酎につけることで渋みがなくなるのか、不思議に思う方もいるでしょう。これは焼酎に含まれるアルコールが柿の実の中に吸収されることで、「干し柿」と同じように、アルコールがアセトアルデヒドになり、水溶性タンニンを水に溶けにくい性質に変えてくれるからです。
お酒にもいろいろありますが、蒸留酒である焼酎が適しています。なぜならアルコール度数が高く、余計なものが入っていないからです。日本酒やワインは、焼酎よりもアルコール度数が低く、失活しているとはいえ酵母なども入っていますので適しません。アルコール度数が高ければ高いほどいいのですが、ウイスキーやウォッカだと独特な風味が移りやすいので、やはり適しません。焼酎にもいろいろな種類がありますが、特におすすめなのは、果実酒を造るのによく利用される「ホワイトリカー」です。ホワイトリカーは一般的な焼酎に比べて、蒸留を何度も繰り返して製造されるため、余計なものが除かれ、ほぼ水とアルコールだけでできています。アルコール度数が50度近い「柿の渋抜き用」のものも売られていますので、利用してみてもいいでしょう。早ければ5日で渋抜きは完了します。
さらに簡単! レンジを使った渋抜きの方法とは
「5日も待てない!」という方には、近年、ネット上で見かける比較的新しい方法があります。アルコールからアセトアルデヒドの生成、そして難溶性タンニンの形成という一連の化学反応は、温度が高いほど早く進みます。その性質を利用し、「皮をむいた渋柿に焼酎をかけてラップでくるみ、電子レンジで30~40秒ほど温める」という方法です。興味のある方はチャレンジしてみてもよいでしょう。なお、筆者が試したところ、この方法ではどうしても渋みが残りました。とにかく速さを重視したい方にはよいかもしれませんが、よりしっかりと渋みをなくした柿を食べたいなら、従来の方法が無難かと思います。