在宅介護には、遠距離、近距離、同居という3つのパターンがあります。それぞれ一長一短があるのですが、「介護離職」という観点から見ると、どのパターンが危険なのでしょうか。
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介護離職をしても、介護の負担は軽くならない
介護離職をする人は年間7~10万人ほどいるといわれています。筆者はこれまで介護離職をした人にたくさん会ってきましたが、「介護離職して本当によかった」という人に出会ったことがありません。「あのときなんで辞めたんだろう」「思ったよりも大変」「どうにかして仕事に戻りたいけど、なかなかいい仕事がない」といった声をよく聞いてきました。実際に、厚生労働省が調査した介護離職に関するデータによると、「肉体的・精神的・経済的」すべての点において「離職する前より負担が増えた」と答えた人が圧倒的多数を占めています。
また、他の兄弟姉妹や親戚・医師・介護関係者などから「仕事まで辞めて親を支えるなんて立派だ」などと言われることが増える一方、介護の責任をすべて負わされてしまうことも少なくありません。さらには「お世話をする人がいるから」と、行政のサポートも手薄になりがちなのが、介護離職の現状と言えるでしょう。
介護離職のリスクが高いのは、「同居介護」「遠距離介護」
ダイヤ高齢社会研究財団が実施した、「親を介護した経験のある40歳以上の男女かつ介護開始時に正社員だった人」を対象とした大規模な調査では、どんな状態の人が介護離職しやすいのかが明らかになりました。その結果によると、「同居・二世帯住宅」で介護をしている人は、介護が始まった後もずっと働き続けている人(継続就労)に比べて、男女とも介護離職の割合が10ポイント以上高くなっていることが分かります。
もう1つは、片道3時間以上の距離で暮らしている「遠距離介護」の場合です。男性は8ポイント、 女性は2.4ポイント、介護離職の割合が継続就労する人に比べて高まっています。つまり、介護離職のリスクが高いのは、「同居介護」と「遠距離介護」の2つと言えそうです。
同居介護が介護離職につながりやすい理由
ではなぜ、同居介護が介護離職につながりやすいのか。筆者は、子どもが介護中心の生活になりやすいことが一番の理由だと考えます。親は心身の状態が悪くなってくると、身近な存在である子どもに何かと頼ろうとするものです。離れて暮らしている場合には「こんなことでいちいち連絡しても仕方ない」と思えるような用事でも、子どもが目の前にいればあれこれ頼みやすくなるのは当然です。さらに「この家は自分たちの家だ」「二世帯住宅を建てたとき、金銭的にかなり負担してあげた」、そんな思いから遠慮せずにわがままを言い出すケースは珍しくありません。
その結果「24時間365日」子どもが親をサポートする状況になり、「こんなにしんどいなら仕事を辞めたほうがいいのではないか」という精神状態になっていくのです。
遠距離介護が介護離職につながりやすい理由
一方、遠距離介護の場合は、「帰省する負担が大きい」ということに尽きます。親が元気なうちは年に1~2回、お盆とお正月に帰る程度だったところが、いざ介護が始まると、年に3~4回、毎月、月に2回、毎週と、どんどん頻度が上がっていきがちです。特に片道3時間以上ともなれば、日帰りを繰り返すのはかなりの負担になります。かといって毎週のように実家に泊まれば、自分自身や自分の家族との時間を削ることに。毎月の交通費もかなりの額になるでしょう。
肉体的に疲弊し、精神的にも気分を切り替えにくくなっていくことで、「仕事を辞めたほうがラクかもしれない」という考えに至るケースは非常に多いです。
介護前提の同居はなるべく避け、事前の対策を
親が高齢になってきたタイミングで、「介護に備えて同居をする」「介護を目的に親から同居を頼まれたので前向きに検討中」という人は多いのではないでしょうか。しかし、筆者としては介護を前提とした同居は避けるべきだと考えています。なぜなら介護が始まると子ども側の負担が増えやすく、介護離職など今後の人生設計を大きく狂わしてしまう事態につながりかねないからです。いくつかのパターンに分けてそれぞれの対策を考えてみます。
【親がまだ元気で「同居中」の場合】
この場合は親子それぞれが心身ともに自立した暮らしができるよう、なるべく早めに独立したほうがいいと思います。
「一緒に暮らしたほうが安上がりだから」と考える人もいると思いますが、いざ介護が始まると、どうしても介護中心の生活に陥りがちです。また、お互いの依存関係が強くなりすぎて、身動きが取れなくなるケースも非常に多いです。
親が元気なうちにこそ、関係性を一旦リセットしてそれぞれが精神的にも経済的にも自立している状況を作ることが、将来的な問題を減らすためにとても大切です。
【親がまだ元気で「遠距離暮らし」の場合】
いざ介護が始まった際に、子どもが頻繁に帰省しなくてもいい体制を作っておきましょう。
「自分が帰ってお世話をしないとどうにもならない」と思い込む人が多いのですが、本当にそうでしょうか。
もしかしたらそのうち親からどんどん連絡が来て、親戚や周囲からは「お前がやらずに誰がやる」と圧力をかけられることもあるでしょう。しかし、頼れるものは意外に多いものです。公的な介護サービスやシルバー人材センターを使う、あるいは家族や親族と話し合いを徹底して、「そんなことを言うならこれはお任せしてもいいよね?」と言い返すことも時には必要です。
弱い立場ですべてを背負っていたら、身動きが取れなくなるのは当たり前のこと。「自分がやるべきこと」を見極めていただきたいと思います。
介護生活が苦しいばかりで、「早く死んでくれたらいいのに」という思いで最期を迎えることほど悲しいことはありません。だからこそ、「自分しかやる人がいない」という状況を未然に防ぐ必要があるのです。
<参考>
ダイヤ高齢社会研究財団「仕事と介護の両立と介護離職に関する調査報告書」(2015)