ひとり演説が止まらなくなる夫
「うちの夫は、“蘊蓄野郎”なんですよ(笑)」笑ってはいるが吐き捨てるような口調でそう言ったミツコさん(43歳)。夫は多趣味で話題も豊富なのだが、下手すると「オレの話を聞け」という状態になることがあると言う。
「夫を知っている人は『また始まった』とか『そのくらいにしておけ』とかいじったり止めたりしてくれるのですが、あまりよく知らない人が多い場面では夫だけが浮いていくんです。浮いてしまった夫は焦って、もっと懇切丁寧に蘊蓄を語るので、ますます場がおかしくなっていく」
だから先日、マンションに越してきた息子の友だち一家に招かれたときも、行く前にさんざん注意した。ひとりでしゃべり続けないこと、まずは相手の話を聞くこと、まだよく知らない間柄だから、相手の言うことを否定したり議論に持ち込んだりしないこと。
「夫はわかったと言っていたけど、息子の友だちのパパが作ったローストビーフをごちそうになりながら、『ローストビーフというのはね』『このソースもまずいわけじゃないけど、違うんですよ。ローストビーフのソースというものは……』と始まっちゃった。
『あなた、やめてよ』『すみませんね、この人、妙な蘊蓄を披露するクセがあって』と言い訳をすると、夫は『妙な蘊蓄ってことはないだろ。オレがイギリスに住んでいたころは……』と自慢話。住んでいたといっても夏休み1カ月の短期語学留学ですよ。私はだんだんイライラしていきました」
「私はお手上げです」
夫がトイレに立ったすきに、「ごめんなさい。蘊蓄野郎で説教野郎で、申し訳ない。もう失礼しますから」と謝罪、戻ってきた夫に「私、ちょっとめまいがするから失礼しようと思う」と告げた。「失礼するなんて、かえって失礼だろうと言う夫をひきずるようにして帰りながら涙が出ました。夫はそれを見て『そんなに具合が悪かったの? 早く帰って寝たほうがいいよ』と。そういうところはまっとうなんですけどね……」
自分が場を乱したことをまったく自覚していない夫。あとからそのときのことを話してみたものの、「それはきみの思い過ごしだよ。今度は一家をうちに呼ばないとね」と妙に明るく言われて脱力したという。
「こういう夫、どうしたらいいんでしょう。私はお手上げです」
友人知人と夫をなるべく会わせない。それしかないのかもしれないと彼女はつぶやいた。