子どもへの好き嫌いは虐待
フォローできるタイプの好き嫌いならいいが、そうはいかない場合もある。子どもへの態度を変えるケースだ。「子どもが3人いるんですが、上ふたりは女の子。夫はふたりともすごくかわいがっていました。ところが3人目に息子が生まれ、2歳くらいになって自我が目覚め始めると、夫は目の敵としか思えないような態度をとることが多くなったんです」
サトエさん(43歳)は思い出したくないのだろう、苦しそうな表情になった。どうして息子にそんなに厳しいのかと尋ねると、「男だから」という答えが返ってきたこともある。
「女の子は甘やかして、男の子にはやたら厳しい。それは差別だろうと言ったんです。そのとき夫は珍しく酔っていたんですが、『男は嫌なんだよ、自分を見ているみたいで』という言葉が返ってきた。夫自身、男の子は厳しくという父親に育てられ、ときには手も飛んで来たらしい。それが嫌だったくせに同じことをしているわけです」
義母は言った「離婚したほうがいい」
すでに父親は亡くなっていたので、夫は父親に抗議することも恨みをぶつけることもできず、その鬱屈が息子に向かったとも考えられる。だが守るべき幼い子に自分の闇をぶつけること自体、サトエさんには信じられなかった。遊びに来た義母の前で、息子の足を蹴ったことがあり、義母は悲鳴を上げた。
「その後、義母が『離婚したほうがいい』と私に言ったんです。『私も離婚できていれば、息子があんなふうにはならなかった。あなたはまだ遅くない。そうしないと孫くんがかわいそうよ。ああいうのは絶対に治らないから』と。勇気ある義母だと思います。義母に背中を押されて、夫に離婚を切り出しました。夫は『娘たちはオレが育てる』というので、きょうだいを分断はさせないと拒否。離婚後、夫は実家で母親と暮らしています」
たまに夫が子どもたちに会いにくるときは、義母もついてくる。義母とサトエさんが、息子に冷たくしないかどうかを見張っているのだ。
「離婚当時、5歳、4歳、2歳だった子どもたちも6年たって成長しました。末っ子の息子も小学生になり、生意気だけどかわいい。夫が一緒に生活していたら、きっと頭を抑えつけられて不自由だっただろうなと思います」
子どもたちは、父親を親戚のおじさんのように感じているようだ。元夫は離婚後、カウンセリングにかかって、かなりメンタル的には客観的にものごとをとらえられるようになった。それでも父への複雑な感情からは脱しきれないとぼやいたこともある。
「でもぼやいたということは、自覚があるからなので、彼も頑張っているのだと思います。それにしても、男女で子どもへの好き嫌いをするなんて信じられません」
好き嫌いという感情的な問題で子どもに手を出したことが、サトエさんにはどうしても許せないという。
「早く離れられたのは本当によかった。義母のおかげです。義母とは元夫のいないところで、ときどき情報交換したりお茶したりしています」
人への好悪の感情にどう対応していくかは人それぞれ。他人ならまだしも、夫が家族に対して悪感情をもっていると感じたら、サトエさんのようになるべく早く離れるのがよさそうだ。