Q. ヘビが大の苦手で、写真を見るのも無理です。恐怖感は克服できますか?
ヘビが怖くてたまらない! 恐怖心を克服することは可能?
Q. 「ヘビが心から苦手で、テレビにちょっと映っているのを見てしまっただけでも、鳥肌が立つほど怖いです。ヘビの写真が載っている本ですら、見ることができません。恐怖感は克服できますか?」
A. 克服する必要はありません。恐怖心を抱くのは悪いことではないからです
結論から言うと、日常生活に何かよほどの支障が出ているといった事情がない限り、ヘビ嫌いを克服する必要はありません。脳の働きとしても、正しい反応だからです。ヘビが苦手なのは、人間だけではありません。たとえば、ヘビを見せられたサルは、通常は怖がって逃げていきます。しかし脳の特定の部分を破壊されたサルは、目の前にヘビを置かれても、ヘビを頭からかじるといった危険な行為に出たり、何の恐れもなく近づいてヘビに攻撃され、傷を負ってしまったりします。
その「脳の特定の部分」というのは、大脳辺縁系に属する「扁桃体」という部分です。扁桃体は「情動の中枢」で、「恐怖心」を生み出す働きもしています。
そもそも「恐怖心」とは、自分に害をもたらすかもしれない対象物を予期して、それを遠ざけたり避けたりするのに役立ちます。それは人間にもあてはまります。
2010年にアメリカのアイオワ大学の研究グループが、扁桃体の損傷により恐怖を感じることができない女性の症例を詳しく報告しています(Current Biology, 21(1):34-38, 2010)。この女性に、ヘビやクモを見る、ホラー映画を見る、過去のトラウマ的体験を回想するなど、通常の人であれば、嫌がって恐怖を感じるようなことを体験してもらい、その反応を記録するという実験研究を行ったところ、いずれの場合も怖がることがまったくなかったとのことです。
また、興味深いことに、口では「クモやヘビは嫌いなので避けるようにしています」と言いながらも、目の前にヘビやクモがいると、すぐに触りはじめてしまうのでした。本人の説明では「嫌いだけど好奇心に勝てなかった」とのことです。
つまり、私たちは未知のものに対して好奇心をもつという本能をもちながらも、害を被るかもしれない嫌いなものに対しては「恐怖」を感じ、自分の身を守る行動をとるのです。そう促す役割を、扁桃体が担っていると考えられています。
不用意にヘビに近づくと噛まれることもありますし、毒をもっていたら命にかかわることもあります。ヘビを怖がることは、自分の身を守るために役立つわけですから、わざわざ克服する必要はありません。逆に、恐怖を抱かず、向こう見ずな行動をとることは危険ですから、そのような人は改めたほうがいいでしょう。実際に、扁桃体が機能しない上述の女性は、何度も命が危険にさらされるような出来事を体験したそうです。
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