この判決が報道されると、SNSでは「老害」の文字が躍った。ぶつかられた女性が悪い、というわけだ。しかしこの事件は、女性が勝手に校庭に入ったわけではなく、子どもたちの下校後にグラウンドゴルフ愛好会の活動が許されており、女性はその一員として来ていた。しかも男児ふたりは集団下校の指導時に、グラウンドゴルフの会員たちが集まっている場所を走り回っていたらしい。
子どもたちと愛好会の会員たちの場をきちんと分けていたのか、下校時の指導は徹底されていたのかなど、市や学校の責任もあると思うが、裁判所は市への責任には言及していない。
それにしても、子どもは悪くない、高齢者が悪いと脊髄反射するネットの反応には驚かされる。
「子ども叱るな行く道じゃ、老人笑うな行く道じゃ」という言葉がある。何かにつけて「老害」を口にする人は年をとったとき、自らの言葉をどう思うのだろう。
陰でこそこそ「老害だよね」と言われて
女性の多い職場で働くチハルさん(48歳)は、1年前、部長に昇進し、今は15人の部下をもつ。自分では体力と気力、知力のバランスが一番いい時期かもしれないと思っているが、就任してすぐ、若手の女性社員から不評を買っていることがわかった。「たまたまトイレに入っていて、『部長ももはや老害だよね』と言っているのを聞いたんです。それもこそこそと。声から誰かも特定できた。彼女は30代前半、自分ではできると思っているけどそうでもない。ただやる気はあるので、このモチベーションを正しい方向に生かせば、すごい戦力になると思っている人でした。期待していただけにがっかりしたけど、彼女の言っている老害の意味を知りたかった」
30代前半、女性部下が考える「老害」とは
ひとりひとりとじっくり話をしたいと思っていたので、面談の時間を設けた。例の彼女と話してみると、部内の年上男性に対して「とにかく老害がひどい」と訴える。その男性は、会社の生き字引的な人で、わからないことは何でも教えてくれる。ノウハウもあるから、チハルさんが頼りにしている人だった。「どこが老害なのかと聞くと、『音をたててコーヒーを飲む』『いまだに、お、髪切った? と言う』『決定が遅い』などなど。決定が遅いというのは彼のせいではないことも多々ある。それ以外はセクハラともモラハラとも言いがたいものばかりで、言いがかりに近い。
私のことも老害だと思ってるでしょと冗談めかして聞くと、『思ってませんけど、もっと仕事を効率的にやったらどうかなと思うことはあります』と。それは聞きたいから、どういうところがそうなのか、どう改善したらいいのかとツッコむと具体案がない。
そこで具体案を出してくれればいいんですが、『私はヒラですから』と逃げる。仕事から逃げないように、何でも協力するからあなたの目標を作ってみてと言うと、『そういうの昭和っぽくないですか』って。何でもそうやって老害だ昭和だと言っていたら、何も進まないよと言ってみたら、ちょっとふてくされていましたね」
老害ならぬ「若害」というのもあるのかもしれない。彼女のそういう態度が職場の空気を濁らせる。だが今は怒れない時代。チハルさんは彼女に向いていそうな仕事を割り振り、30代後半の先輩女性をつけて細かく見てもらっている。
「あの子は戦力になる。私の目が狂っていないことを証明したいんです」
上司の心を彼女がくみ取れる日が来るのだろうか。
>老害にも「種類」はある