妻から夫への暴力が増えている
「令和5年におけるストーカー事案、配偶者からの暴力事案等、児童虐待事案等への対応状況について」という警察庁発表の統計資料によると、2019年に1万8000件弱だった妻から夫へのDV件数は、4年後の23年には約2万4000件超にまで増えている。「うちもそうでした。モラハラも度を超えていた。『あんた、バカなの?』『信じられない。どういう育ちをしたらそういう思考になるの』と完全に侮辱するような言葉を浴びせられ、フライパンで殴られたこともあります」
タカシさん(42歳)はそう振り返る。妻は結婚前から気の強い女性ではあったが、子どもを産んで仕事をやめてから、その気の強さが妙な方向へねじ曲がっていった。自分が「こんなくだらない生活をしているのは、すべて夫が無能だからだ」と言い始めたのだ。
「すべて夫が無能だから」という主張
このままだと娘にまで暴力が及ぶ。そう思ったタカシさんは4年前に、当時3歳だった子どもを連れて逃げた。離婚をもちかけたが、妻は「今さら離婚なんてできない」と言う。彼は調停を申し立てたが合意できず、ついには裁判になった。「その過程で、妻が娘に会いたいと言い、第三者立ち会いのもとで会わせたものの、娘が大泣きして……。妻は娘にもおそらくすでに暴力を加えていたんでしょう。気づかなくて申し訳ないことをしたと思っています」
コロナ禍でなかなか進まなかった裁判は、昨年、ようやく決着した。もちろん、彼が親権をもち、娘と安心して暮らせるようになった。
「裁判の過程で、妻自身がDV家庭に育ったことが分かりました。結婚する時、いっさいそんなことは言わなかった。知っていれば対処のしようもあったかもしれない」
相談しづらいが……妻からのDVも重い罪
彼は娘のために職場も働き方も変えた。出社は週に3回、それも定時で引き上げる。あとの日はリモートで、そして家でできる副業も始めた。「週末は、娘が夢中になっているダンスのレッスンに付き合ったり、二人で遊園地に行ったりしています。ただ、時々娘がうなされていることがある。怖い夢を見ているのかと思うとふびんで。母親のことは一言も洩らしません。それがかえって傷の深さを物語っているような気もするんです。カウンセリングにかかった方がいいかどうか考えているところです」
DVは子どもの心に大きな傷を残す。もちろん、タカシさんにも後悔と禍根がある。夫からのDV同様、妻からのDVも重い罪だ。だが男性はいまだに「妻からのDVがあって」と相談しづらいようだ。自身のためにも子どものためにも、しかるべきところに相談した方がいい。
<参考>
・「令和5年におけるストーカー事案、配偶者からの暴力事案等、児童虐待事案等への対応状況について」(警察庁)
・「DV相談窓口」(男女共同参画局)