夫は「夫婦は他人」を理解してくれたはずなのに
30歳で知り合った同い年の彼は、非常に柔軟な人だった。「やっぱり夫婦は他人。その他人同士がつながって子どもを作り、家庭ができる。親子やきょうだいは家族だけど、夫婦はあくまで他人同士。だからこそ、夫婦は気を遣い合うべき」
そんな彼女の気持ちを、彼は理解してくれた。賛同さえしてくれたはずだった。だからナオさんは結婚を決意した。それなのに結婚したら彼は変わっていった。
「私は他人だという意識が強いから、相手をフォローするような言葉遣いや態度をとるわけです。でも彼はけっこう素っ気ない物言いをする。例えば私が作った料理を、彼は味もみずにいきなりしょう油をかける。それは失礼でしょ、まず食べてみてからにしてくれればいいのにと言ったら、『だってオレ、しょう油が好きなんだもん』と。
友達に同じことが言えるかと問いただしました。おれたち、夫婦じゃん、家族じゃんと言っていたけど、それは違う。夫婦だからこそ少しの気遣いが必要なんだと私は思っていた」
彼が料理を作った時、ナオさんはまず「ありがとう」と彼にお礼を言う。そして味わう。もちろん、味が好みではないと時ある。そんな時は「私には少し薄いかなあ」と言ってみる。何を足したらよりいい味になるかと彼に聞く。
「家族なんだから」と言われて絶望する
「だけど彼は、別に食べなくてもいいよと言うわけです。そう言われたら、自分の味の好みも伝えられない。せいいっぱい気を遣いながら言っているのに素っ気なくぶった切られる。そして二言目には『いいじゃん、家族なんだから』と。どんなことにも家族なんだからいいと言われると、個人と個人の関係じゃないのかと言いたくなってしまう」
自分が“家族”というものに、複雑な感情を抱いていることを知っているはずの夫でさえ、結局は理解してくれないんだと、ナオさんはときどき絶望的な気持ちになるそうだ。
「なんですかね、家族って。個人同士が縁があって結婚して、半々の遺伝子をもつ子どもが産まれたということですよね。子どもだって一人の人間で、きちんと人権もある。親のものじゃない。だけど子どもは自分の家族だなとは思える。夫にはそう思えない。どこまでいっても他人だと思う」
やっぱりこんな私がおかしいんでしょうか。ナオさんは本当に困惑したような表情でそう問いかけてきた。