長男だから当たり前……
「姉さんたちはみんな口をそろえて言うんですよ。『長男なんだから実家で親と同居して介護しろ』と。どうしたらいいんですかね」今回、介護の悩みを打ち明けてくれたのはマスオさん(仮名/50代男性)。子どものころから、口が達者な姉2人に言い負かされてきたと言います。
「80代になる両親は最近足腰が弱ってきて、自分たちで買い物に行くことも難しくなってきていたり、物忘れも増えてきたりしています。姉さんたちは実家から遠く離れたところで家族たちと暮らしているので、それよりは近いところにいる僕が対応せざるを得ない状況です。親は姉たちに何も言いません。最終的には僕が何とかしてくれると思っているんでしょう」
マスオさんの自宅から実家までは車で1時間ほど。月に1回くらいのペースで親の様子を見に行き、毎週1~2回は電話をしているとのこと。自身も家庭があるマスオさんにとってこれはかなりの負担です。
「いくら姉たちより近いからといってもさすがにツラいじゃないですか。しかも、両親は認知症の検査や要介護認定を嫌がる。このままではらちが明かないので、今後のことを相談しようと頑張って姉さんに連絡を取ったんですよ」
「姉さん、親のことだけど、もうちょっと手伝ってくれないかな?」
「長男のくせに何を甘えているの? 私たちは嫁いだ身だし、手伝えることはないの。そうだ、奥さんに仕事を辞めてもらって日中の介護をやってもらえば? 夜や週末はあなたがやればいいんだし。あ、あと、施設に入れるなんてもってのほかだから。絶対にダメ、やめてよね」
彼女たちには親の介護をする気は一切なく、介護サービスを利用するための費用を負担するつもりもない。しかも、姉たちは両親に連絡をして「私たちから、マスオに同居して介護するようにちゃんと言っておくから」と伝えたとか。両親からも頼りにしていると言われてしまいました。
マスオさんによれば、彼女らが特に施設介護を断固拒否している理由は親の遺産目当てではないかと。
「長男だから、末っ子だからと両親からひいきされた記憶はありません。むしろ姉たちは学生時代に私大に通ったり、留学したりと楽しく過ごしていました。家を建てるときの頭金だって出してもらっている。僕はそんなことをしてもらったことはないですし、社会人になってからは毎月3万円ずつ仕送りまでしています」
姉たちは実家から離れたところに暮らしていることもあり、実家に足を運ぶのは数年に一度くらい。それでも、両親は孫たちにお年玉や誕生日プレゼントを送っているし、その代行をしているのはマスオさんだと言います。
「姉たちに何を言ってもムダ。おそらく看護師としてフルタイムで働く僕の妻をアテにしていると思うのですが、こんな状況を妻に相談して、仕事を辞めさせることなどできない。たとえ自分が無理して同居介護をするにしても、妻や子どもは犠牲にしたくありません。“長男だから”親と同居して介護するのが当たり前なのでしょうか」
>次ページ:「介護の敵」ではなく「人生の敵」とどう戦うか