脱炭素社会を目指し、事業用建築への取り組みがスタート
このたび住友林業では、オフィスや店舗・クリニックなどの事業用建築を木でつくる、新しいブランドを立ち上げました。「The Forest Barque(ザ・フォレスト バーク)」と名付けられたこの商品について、アセットソリューション部の田中盟士(タナカチカシ)、兼松宏樹(カネマツヒロキ)が詳しく紹介します。
田中「私たちが事業用建築に本格的に向き合うきっかけとなったのは、2010年に施行された木材利用促進法でした。これは、地球温暖化の防止などを主な目的として、日本の豊かな森林資源を活用し、さまざまな建築物に木材を使おうというものです」
国も2050年に脱炭素社会を実現するという大きな目標を立て、家庭や企業のCO2削減をバックアップしています。
兼松「こうした時流から、環境性の高い木造建築は大きな注目を集めることに。2011年に事業用建築に対応する『木化推進室』という社内ベンチャーがスタートし、年々ニーズが増加している状況を受けて、2022年に専門部署として『アセットソリューション部』を立ち上げる運びとなりました」
田中「住友林業は木造の注文住宅を得意としていますが、事業用は住宅とはまた違う営業や設計の方法も必要になります。私たちの部署では、常に同じ質のものを提案できるよう、全国の支店を取りまとめて支援しています。それをさらに拡販するため、今回の『The Forest Barque』というブランドづくりに取り組みました」
ブランド名の「Barque」とは、フランス語で「帆船」の意味。建築物を船に見立てて、オーナー様の姿を荒波に立ち向かう船長に例え、その経営を力強くサポートしたいという思いが込められています。
培ってきた注文住宅のノウハウを、事業用建築にも活用
注文住宅で培った知識や技術は、「The Forest Barque」の中でもあちこちに活用されています。
田中「注文住宅のリビングなどで大空間をつくる『BF(ビッグフレーム)構法』は、大型のオフィスや店舗など広いスペースが必要な建築物に最適です。開放感たっぷりの空間が確保でき、設計の自由度も高く、耐震性に優れ、内装変更もしやすいといった、たくさんのメリットがあります。
大きな窓を配して働きながら室外の風景を眺められるようにするなど、さまざまな楽しみも生まれます」
木造建築は柱が多く、大空間をつくるのが難しいと思われがちですが、BF構法であれば実現が容易です。
兼松「逆に、比較的小規模な事業所の場合は、外周部に面材耐力壁を設置して建築物を支える『WF(ウォールフレーム)構法』を採用しています。こちらも間取りの自由度が高く、将来のリフォームにも対応しやすい構法で、社員寮やグループホームなど室内を細かく区切って利用する業種にもお勧めです」
また、柱や梁などの構造躯体をあえて隠さずに見せる、木造建築ならではの「現し(あらわし)」で仕上げることで、空間がさらに広く感じられ、豊かな木質感が演出できます。
自然を取り入れた職場環境は、働く人に幸せをもたらす
働く人にとって、職場は1日のうち長い時間を過ごす場所。職場の空間デザインに自然を感じられる工夫があると、多くのポジティブな影響があると言われています。
兼松「木や緑などを取り入れた空間づくりは『バイオフィリックデザイン』と呼ばれ、国の施策としても取り組みが始まっています。従業員やそこを訪ねるお客様が“ここで過ごすのは気持ちいいな”と幸せを感じられる、数値化できない快適さが非常に大切なのです」
バイオフィリックデザインを施した建築物は、ストレスや不安の軽減、リラクゼーション、業務効率・創造性の向上、体調不良やモチベーション低下を和らげるなど、いくつもの効果が期待できます。
田中「住友林業では、木と緑にあふれたデザイン提案を意識し、空間プロデュースを専門とするグループ会社とも連携をとっています。木のぬくもりや優しさ、緑のある心地よさをぜひ体感してほしいですね」
木の建築ならではの優れた環境性に注目
心地よさや幸福感といった人の感性に訴える部分に加え、木の建築の大きな魅力は環境面での優位性です。「The Forest Barque」では、断熱性の高い木材と超高密度の断熱材、省エネ性の高い窓などを組み合わせ、優れた断熱性を実現。昨今高騰している光熱費の削減にも役立ちます。
兼松「特に事業用建築で注目度が高いのは、『ZEB(ゼブ)』を進めていること。ZEBとはNet Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略で、快適な室内環境を保ちつつ、省エネと創エネを活用し、建築物で使う電気やガスなどをゼロにすることを目指す建築物です。一般住宅と比べて事業用建築はエネルギー使用量が多いため、その光熱費削減効果はとても大きくなります」
ZEB仕様の建物では、光熱費等のエネルギー使用量を削減することで、建物を使用する際に排出するCO2(オペレーショナルカーボン)も減少できます。一方で、重要でありながらこれまであまり対策が取られていなかったのが、建物を建築するときに排出されるCO2(エンボディドカーボン)の問題です。
田中「実は、世界の産業別に見ると、CO2排出の37%を占めているのは建設関係なのです。そのうちの70%が建築物で暮らすときに出るCO2(オペレーショナルカーボン)、30%が建築物を建てるときに出るCO2(エンボディドカーボン)です。エンボディドカーボンを減らすことは、世界中で大きな課題となっています」
兼松「木材はCO2を取り込んで固定化し、大気中に放出しない天然の素材です。建築物を木造・木質化するだけで、鉄骨や鉄筋コンクリートなどに比べ、エンボディドカーボンの削減が可能になります。
残念ながら日本はまだ対策が遅れていますが、いずれは原料の調達・輸送・加工・建築の過程でのCO2削減も義務化されると予想します。環境に意識が高い大手企業など、自社を木造にすることを検討されるケースがさらに増えてくるでしょう」