結婚を機に豹変した!?
結婚すると、「甘やかしちゃダメ」という彼ならではの特性が突然、表面にあらわれた。新婚旅行はイタリアに1週間だったのだが、着いてすぐ彼女は若い男の子数人に囲まれた。おそらくバッグをひったくろうとしたのではないかと彼女は考えている。「そのとき彼は、逃げろと言っていきなり走り出したんです。私はキャリーバッグを引いているのに。しかたがないからギャーギャーわめいたら現地の男性が彼らを追い払ってくれました。日本語で『ふざけんな!』と言ったら、悪口だとわかったんでしょうね。助けてくれた男性が笑っていました。気をつけてと英語で言われたので、ありがとうと答えて」
男性が立ち去ると彼が戻ってきた。ひとりで逃げるなんてひどいと言うと、「きみが逃げないのが悪い」と言われた。もし襲われたらどうするのよと聞いたら「ふたりしてやられるよりいいんじゃない?」と彼は言った。
「そういう考え方なのかと驚きましたね。コイツは信用できないと思った。自分さえよければいいというのは旅行先でも感じたし、帰国して日常生活が始まってからもよくわかりました」
食事を作れば「イマイチなんだけど、どうして分量通り作れないの?」と言われ、何かというと「頭を使えよ」と言われた。
「ああ、そういえば仕事のときも、頭を使えってよく言われたなと思い出しました。あのころはこっちも仕事を覚えるのに必死だったから、それがパワハラだとも思わなかったけど、夫婦になってから言われると完全にモラハラだと感じました」
どういう教育を受けたきたの、親の顔が見たい、きみの言っていることは論理的じゃない、意味がわからない、主語はどこにあるの……などなど、一言いえば、何重にもそういう答えが返ってくる。
「1年も経たないうちに気力がなくなって疲れちゃいましたね。母や友だちに愚痴っても『だって、そういう人だとわかっていて結婚したんでしょ』と言われる。エリート系にはよくあるタイプだよね、でもそういう人がよかったんでしょとも言われた」
職場の先輩から指摘された
自分がどんどん元気でなくなっていくのがわかった。思考能力がなくなり、夫に文句を言われないためにどうするかという発想だけで動くようになった。会社では夫と違う部署に異動したのだが、どこかに夫の目があるような気がして落ち着かない。「そんなとき、特に仲がよかったわけでもない女性先輩から『一緒にランチしない?』と誘われたんです。そして『間違ってたら申し訳ないけど、あなた、大丈夫? 自由に快適に結婚生活送れてる?』とさりげなく聞いてくれた。私、その言葉を聞くなり号泣しちゃったんですよ」
自分でも思いがけなかった。それだけ我慢していたしストレスがたまっていたのだと初めて自覚した。泣きながら先輩に現状と思いを打ち明けた。
「彼女が力になってくれ、弁護士も紹介してもらって、それからすぐ離婚交渉に入りました。『そういう人だとわかっていて結婚したんでしょ』という言葉は、彼女自身も経験したそうです。自分でもわかっていることを他人に言われると、より傷つくのよねと先輩に共感してもらって、私は本当に救われたんです」
追いつめられていても、他人からはそう見えないこともある。夫に苦しめられ、さらに親しい人たちにわかっていたんでしょと言われると、当事者は逃げ場がなくなる。結婚後に豹変する相手もいるのだということを理解してほしいとトシコさんはしみじみと言った。