夫婦みたい? 父と見知らぬ女性の関係は
玄関で声をかけると、父と同世代の女性が出てきた。アキさんは名前を名乗って「父に会いにきたんですが」と言った。女性は慌てて奥へ駆け込んでいった。「父が出てきて、『おう、よく来たなあ』って。上がってと言われたので、上がりました。リビングに通されて座っていると、父がお茶を運んできた。『さっきの人は誰?』と聞いたら、『近所の人だよ。畑を手伝ってもらっている』と予想通りの答え。
『近所の人と腕を組んで、ベタベタしながら道を歩くんだね、お父さんは』と言うと、父は慌てふためいていました。いや、そういうことじゃなくて、あの、その……という感じ。まあ、別に私は構わないけどねと冷たく言うと、父は『お母さんには内緒にしてほしい』って」
内緒にしてほしいような関係なわけね、とアキさんが言うと、父は「そういうことじゃない」と言いながら、彼女が小・中学校時代の同級生で、夫に先立たれて近くでひとり暮らしをしていると明かした。
「結局、ここで一緒に住んでるんでしょと聞くと、父は何も言わなかった。手を洗おうと洗面所に行ったとき、女性用のスキンケア用品が並んでいたんですよ。キッチンの様子を見ても、一緒に生活しているのは明らかだった」
この事実を母に知らせるべき?
父は別居後も2カ月に1回ほど東京の自宅に戻って2~3日過ごすことはあったが、母はまったく父の元を訪ねなかった。離れているのが当たり前になっていったとき、父は実母を失った寂しさもあって女性と親しくなったのかもしれないと、アキさんは一定の理解は示している。「両親の夫婦の問題だから、私は別に口を出さないけど、こういう暮らしを平然としているのは母への裏切りだとは思う。離婚するならするではっきりさせたほうがいいんじゃないのと言うと、父は『いや、離婚なんてするつもりは……』とモゴモゴ言っていましたね」
アキさんは母にはその話をしていない。父を庇うつもりはないが、母を傷つけるつもりもないからだ。母は68歳になった今もパートをしながら、毎日元気に楽しんでいる。
「それでも父に何度か連絡はしました。相変わらずなのか、と。父には適当にかわされていますから、相変わらずなんでしょう。父と彼女と母、誰かが病気になったりしたときどうするんでしょうね。弟に言ったら、『放っておけばいいよ』と一言でした。気にはなるけど、放っておくしかないんだろうなと私も思っています。ときどき、母に真実を知らせるべきかもしれないとは思うんですが、やはり伝える勇気は出ません」
アキさんは困ったような表情でそう言った。この先、どうなるかわからないが、母に言っておけばよかったと思う日が来るのか、言わないでよかったという結末になるのか、それは誰にもわからないのかもしれない。