「婚外恋愛」には完璧さを求めたい
日常生活は夫と協力してこなしている。子どもたちはかわいい。仕事もある。なかなか会えないが、ときには友人たちと会うこともできる。既婚女性にないものは「恋愛だけ」と言う人もいる。結婚しているのだから恋愛は必要ないと考えるタイプもいるだろうが、必要かどうか以上に「出会ってしまったのだからしかたがない」のが、不倫をしている人の本音だろう。「だからこそ、婚外恋愛には恋愛としての完璧さを求めてしまったんです」
似たような経験をしたミエさん(39歳)は言う。22歳と若くして結婚したミエさんは、20代のうちに女の子の双子と男の子を出産、3人の母となった。ある技術職についているが、出産前後を除いて、ずっと仕事を続けている。
「双子はもう高校生になりました。長男は中学生。最近、ようやく少し時間的に楽になりました。私の人生、子育てと仕事だけで終わると思って鬱々としていた時期もあったけど、40代はもっと遊んでやると思いながら頑張ってきたんです」
2年前のことだった。仕事先で出会った人と何度かランチをともにしているうち恋に落ちた。あなたが気になってたまらないと言われたとき、私もと口走った。それからすぐに男女の関係になり、寝ても覚めても彼のことしか考えられなくなった。相手は6歳年下だった。
「私、まったく恋愛も知らないままに夫に引っ張られるようにして結婚してしまったんです。夫は優しかったけど、結婚のきっかけも妊娠だったから、なんとなく若い日にしそこなったのが恋愛だなあと思っていた。そんなときに年下の彼に会って、私はこの人に出会うために今日まで生きてきたんだと思い込んだ。
恋の威力ってすごいですよね。いつも以上にパワフルになって、仕事も家事もばんばんやって。子どもたちに『何かあったの?』と言われました」
子どもたちに仕事だと嘘をついて彼に会ったこともある。家族で過ごすために取るはずだった有休を、彼のために使ったこともある。それでももっと会いたかった。彼に自分の人生のすべてを知ってほしい、彼のことも知りたい、彼の人生を背負いたいと、思いはどんどん募っていった。
終わりの瞬間も突然だった
「私の誕生日に、彼がアクセサリーをくれたんです。うれしかったですねえ。夫はアクセサリーなんかくれるタイプじゃないから。恋はますます燃え上がった。でもある日、一緒に食事をしていたら、彼が『これ、おいしいね。持って帰りたい』と、ふと漏らしたんです。そのときはそうだねと同調したんですが、数日後、この関係は解消しようと思いました」わかっていたことではあった。お互いに家庭があるのだから、家庭を最優先させてきたはずなのだ。それでもミエさんの心はいつも彼が一番だった。一緒に食事をしているのに、彼はおそらく家族が食べる様子を思い浮かべて「持って帰りたい、食べさせてやりたい」と思ったのだろう。それに気づいたとき、彼女の心の中で何かがぷつりと切れた。
「その瞬間、私の中では終わりました。彼は別れたくないと言ったけど、バレない今が潮時だよと言って別れました。少し虚しかったけど、なんとなく晴れ晴れとした気持ちにもなりましたね」
ミエさんもまた、「やりきった」感が強かったようだ。恋はふと訪れて、思いがけないときに去っていくものなのかもしれない。