該当の商品は、韓国でも激辛即席麺として認識されている。普段から辛いものに慣れ親しんでいる韓国の人ですら辛いと感じる商品なので、デンマークで危険レベルだと判断されるのもうなずける。
それにしても、韓国は辛い食べ物が多い。代表的な調味料の1つ、コチュジャンを使った料理が多く、スーパーには陳列棚1つ分を占めるほど、いろいろなブランドから発売されているコチュジャンの赤い容器が並んでいる。
唐辛子粉もよく使うし、小さく切った唐辛子片を入れることで辛みを出す料理もある。そのため、これら唐辛子系の調味料を台所に置いていない家庭は、韓国にはまずない。
なぜ韓国料理には辛いものが多いのか、という問いに対する回答は諸説ある。特に朝鮮半島が寒いということが、1つの大きな理由のようで、「食糧を長期保存するために唐辛子を使うようになった」「唐辛子を食べることで血行が促進され体が温まる」などといった理由があるようだ。
適度な辛さならストレス発散になる!?
辛すぎる食べ物は、健康を害することがあるが、そこそこの辛さなら、ポジティブな効果も期待できるようだ。カプサイシンが代謝を促進することで、肥満予防や抗酸化作用も期待できるとか。また、韓国の人たちは、辛い食べ物は「ストレス発散になる」「汗をかくことですっきりする」と言う人が多い。いずれにしても、適度な辛さのものを適量食べた場合に限られるだろうけれども。
ちなみに、韓国の代表的な唐辛子・チョンヤンコチュは、唐辛子の辛さの基準を示すスコヴィル値(SHU)では4000~1万SHUほどで、これを使用した料理は当然辛い。 デンマークで回収されたという即席麺は1万SHUで、これはある程度辛いものを食べ慣れている人でも口の中が痛くなるほどの激辛。
現在韓国で販売されている即席麺の中で最も辛いものは2万1000SHUあるといわれているが、ここまでくると食べることがストレス発散になるどころか、おいしく味わうのはほぼ不可能で、痛みしか感じないのではないだろうか。2023年に世界で一番辛い唐辛子SHUとしてギネス認定されたペッパーXは269万3000SHUというから、その辛さはもう想像もできない。
辛さの基準は……?
韓国では昨年からマーラータン(麻辣湯)が流行りに流行っている。もともと辛い食べ物を日常的に食べる韓国だから、抵抗なくすっとなじんで人気になった。街のあちこちにマーラータン(麻辣湯)専門店ができ、その前には中高生が列を作っている。辛さのレベルは0~5まで段階別に設定されていて、数字が上がるほどに辛さは増す。ただ、辛さ0のレベルでもしっかりピリ辛程度はある店が多く、韓国の「辛くない」の基準は日本のそれとは違うことがお分かりいただけると思う。
だからこそ韓国では、顧客の希望する辛さ具合のニーズに応えるべく、即席麺を始め、さまざまなレトルト食品が、순한 맛(スナンマッ/マイルドな味)と매운 맛(メウンマッ/辛い味)の2バージョン売り出されている。ただ勘違いしてはいけないのは、순한 맞(スナンマッ/マイルドな味)が辛くないわけではないということ。多くの場合、ピリ辛程度の辛さはある。
食堂でも同じだ。「この料理は辛くないですか?」と聞いて、「辛くない」という返事が返ってきても、そのまま信じるのは危険。ほんの少しの辛さは、「辛い」のうちに入らないと考えている人が多いため、運ばれてくる料理を一口食べた瞬間「辛いじゃん……」なんてことはざらにある。
순한 맛(スナンマッ/マイルドな味)を注文したところで、「매운 맛(メウンマッ/辛い味)よりはマイルドで、多少は辛い」ぐらいに捉えておくのが妥当である。
「辛さ」は慣れる
筆者も子どもが小さいときは、この「辛さ」問題で外食には苦労した。うどんや韓国素麺ですら、基本は唐辛子粉が入っておりピリ辛の状態だ。コチュジャンで味付けがしてあるおかずも多い。韓国の「辛くない」は、日本人が感じるところの「ピリ辛」ぐらい、ということを体得してからは、注文時に辛みのある調味料を入れないよう頼んだり、香辛料だけ別のお皿に入れてもらったり、あるいは子どもの食べ物は別途持参したりしていた。
当時、現地の保護者たちはどうしているのか不思議だったので観察してみると、なんのことはない、幼児にも辛いものを食べさせていた。もちろん、辛すぎる食べ物は与えないが、ピリ辛程度のものはごく普通に与えているようだった。辛さに対する耐性は、幼い頃から養われているのだ。
筆者自身、成人するまで韓国料理を食べたことはなく、辛い食べ物もほとんど食べたことがなかった。それでも韓国で暮らすようになり、何年も毎日韓国料理を食べ続けた結果、今では現地の人が驚くほど、辛い料理をおいしく食べているので、「辛さ」というのはつくづく「慣れる」ものなのだと思う。
韓国の人はみんな辛いものが大好き?
もちろん韓国にも辛いものが好きではないという人たちは当然いる。実際に筆者の周りにも、辛い食べ物は苦手だと公言している人が何人もいる。それでも、순한 맛(スナンマッ/マイルドな味)程度の辛さは、おいしく食べられるだけの耐性がある人がほとんどだ。そしてそれは、多くの日本人にとっては「かなり辛い!」というレベルなのである。短い旅行ならともかく、韓国で暮らしながら、辛いものを全く食べずに生きていくことはほぼ不可能である。人とのつきあいもあるし、学校生活もある。辛いものを全て排除していたら、人間関係と生活に支障が出てしまう。
そんな環境だからこそ、辛いものが苦手という人でも、幼い頃から培ってきた“辛いもの耐性”はあるわけで、 実はそこそこの辛さのものを食べられるし、そもそも「辛い」と感じるレベルも日本人のそれとは違うのだ。
これから初めての韓国旅行に行くという方々、순한 맛(スナンマッ/マイルドな味)にも腹をくくって挑んでいただきたい。