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【実録】免許は返納したけれど…高齢の父親に“運転をやめさせた”50歳女性が語る「リアルな本音」

高齢者ドライバーの免許返納については、さまざまな議論が続いている中で、当事者の声を通して見えてくるシビアな現実があります。実際に父親が免許を返納することになった50歳の女性は、安心感と罪悪感の狭間で揺れていました。その思いに耳を傾けます。

横井 孝治

執筆者:横井 孝治

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実際に父親が免許を返納した50歳女性に話を聞いた

実際に父親が免許を返納した50歳女性に話を聞いた

高齢者ドライバーの運転免許返納についてはさまざまな議論がある中で、当事者の声を通して見えてくるシビアな現実があります。「何か事故を起こす前に早く免許を返納してほしい」と思う一方で、複雑な心境を抱える50歳の女性がいます。免許返納をめぐる思いに耳を傾けました。
 

最善策は本当に免許返納なのか

「さとみ、元気? 今日お父さんが免許返納することになったのよ。今まで心配かけてごめんね」

近所に住む母親から送られてきたLINEを複雑な気持ちで眺めるのはさとみさん(50歳)。彼女はここ数年、父親(77歳)の免許返納に対して思い迷っていました。

「私の父、2年前に肺の病気にかかって大きな手術をしたんです。その後、日常生活に支障はないほどまでに回復したけれど、毎日薬は服用しているし、たまに息苦しそうにしているときもあって。いつまた重症化してもおかしくない。だから、家族会議で運転をやめさせたほうがいいねってなったんです。姉と母は1日でも早く免許返納させるためにはどうしたらいいかと躍起でした」

さとみさんの父親は体調が急変するリスクがあるため、もしも運転中に万が一のことがあったら、交通事故を起こしかねない。父親は免許返納に断固反対しているけれど、何かあってからでは遅い。だから不安材料はなるべく早めに取り除いておきたいというのが、家族としての決断でした。

「でも、私は完全には納得できなくて……。実家は最寄りの駅から大人の足で20分~30分ほどのところにあって、スーパーまでもけっこうな距離があります。コンビニもあるけれど往復で30分はかかるかな。そんな場所で生活の足であるマイカーを失ったら、父と母はどうやって暮らしていくのか心配で。もちろん私も最大限サポートはしますけど、仕事もあるのでずっと一緒にはいられない。車がない生活を本当に送っていけるのか、かえって生活しづらくなるんじゃないかと不安でした」

そして何よりも、さとみさんの一番の気がかりは父親本人の気持ちだったといいます。

「病気して以降、ずっと家にこもりがちだった父親の唯一の楽しみが『車の運転』だったんです。周りに何もない田舎ですから、ストレスのはけ口がないんですよ。車がないと娯楽にもありつけません。鍵のしまる小さな空間で1人になれる時間は大切だったんだと思います」

もちろん、さとみさんも免許返納の必要性は十分に理解している。交通事故を未然に防ぐためには、今のところ免許を返納するしかない。ただ、自分の取った行動が父親の“生きがい”を奪うことにもなりかねないと思うと心が揺れる。親の子どもだからこそ、親の気持ちが手に取るように分かってしまうからつらい。

「免許を返納して、最近父は自宅近くで畑を借り、トウモロコシやナスを育て始めたみたいです。買い物は母が自転車に乗って行っています。なんとか生活は続いているようですが、“免許返納”が人の生活を大きく変えてしまうということは、実際に経験して初めて知りました」

さとみさんは、消化しきれないモヤモヤを抱えつつ、現実としっかり向き合いながらお話ししてくれました。

>次ページ:親が免許返納をイヤがる主な3つの理由
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