60歳までは何かしらの仕事はするつもりでいます
皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。今回のご相談者は、仕事を50歳で退職したいと考えている46歳の会社員女性です。ファイナンシャル・プランナーの深野康彦さんがアドバイスします。激務の仕事を50歳で辞めようと思います
犬山ワン子さん
女性/会社員/46歳
関東/借家
■家族構成
1人暮らし
■相談内容
現在、小さな事務所で専門職をしています。納期前の激務やプレッシャーに、年齢を重ねるごとに心身の疲労が大きくなってきました。そのため50歳での退職を考えています。60歳までは何かしらの仕事はするつもりでいます。この10年間でどのくらいの収入があれば、安泰に人生を終われるのか、ご教示いただけるとありがたいです。
現時点で予定している事項は以下のとおりです。
・両親は健在で、将来的な介護施設費用などは準備済み
・相続はおよそ1000万円
・賃貸暮らしのまま最終的に施設に入居希望
・老後の雑務などは有料のサービスを利用予定
よろしくお願いいたします。
■家計収支データ ■家計収支データ補足
(1)ボーナスの使い道
すべて貯蓄。
(2)貯蓄と投資について
月により、臨時収入(株の配当金)があったり、突発的な支出があったりするため、貯金額には幅があり、使わずに余った分を貯金しています。年間の貯蓄額は約100万円です。投資はiDeCoで積立投資。
(3)自動車について
車両費の内訳は駐車場代8800円、ガソリン代6200円。自動車の買い換えは10年後に、予算200万円。
(4)保険について
共済=毎月の保険料2000円
(5)公的年金について
現時点で、公的年金の見込み額は84万円
(6)働き方について
退職金はありません。お小遣い程度の慰労金はあるかも……。同業種同職種での転職は考えていません。可能であれば、60歳で完全リタイアしたいです。
(7)今後の生活について
賃貸の更新のタイミングで今より家賃の安い物件への引越しを考えています。心身に無理のない仕事で最低限の収入を得つつ、自分の時間を大切にしたいです。新たに何かを始める予定はありませんが、現在の趣味(推しアーティストのライブ、野球・サッカー観戦、ソロ旅)は細々と続けていければと思っています。
■FP深野康彦の3つのアドバイス
アドバイス1 100歳までで試算すると約2000万円が不足する
アドバイス2 転職もしくは65歳までは働き、収入アップの道を
アドバイス3 収入が減るなら、もう一段の生活コストの削減を
アドバイス1 100歳までで試算すると約2000万円が不足する
50歳から60歳からの10年間でどれだけの収入があればいいか、というご相談ですね。順を追って試算していきましょう。先に述べておきますが、少々厳しい内容になります。現在の金融資産が2800万円。今後4年間で400万円を貯蓄し、50歳時点では3200万円となります。退職して働き方を変えるとなると、少しでも生活費を抑えたいところです。
家賃が今より下がり6万円程度になったとし、住居費は1万7000円の削減。通信費は契約の見直しで1万円の削減を考えてください。これで毎月2万7000円の削減ですが、食費が2万円とやや少なく、健康維持のために1万円アップしていただきたいと思います。都合、1万7000円の削減で、毎月の支出は17万7000円とします。年間で約213万円の支出です。
さて。50歳から60歳までの必要な収入を考えるために、60歳以降に必要になるお金を試算します。年間213万円の支出が60歳から40年続くとすると8520万円が必要です。
65歳から公的年金があり、現在の見込み額は約84万円ですが、60歳まで年金保険料を支払っていれば、90万~100万円程度には増えると思われます。100万円とすると手取りは95万円。65歳から35年間の年金総額は3325万円です。
必要なお金8520万円から年金総額を差し引くと5195万円。そして50歳時点での金融資産が3200万円ですから、約2000万円の不足ということになります。50歳から60歳までの10年間で2000万円を貯めることができれば、100歳まで安泰に生活できると言えます。
年間200万円の貯蓄をするには、生活費の213万円を加えて約415万円の手取り収入が必要です。現在の手取り収入が344万円ですから、現状維持でも、厳しい状況ではあります。
アドバイス2 転職もしくは65歳までは働き、収入アップの道を
現在の勤務先がつらいのであれば、4年を待たず、転職を考えてみてもいいのではないでしょうか?収入は少なくとも現状維持で、厚生年金に加入できる働き方が望ましいです。いったんリセットし、休養をとり、60歳でリタイアではなく、せめて65歳まで、できれば細く長く働いて、収入を得る道を考えていただきたいと思います。少なくとも、現在の生活費がまかなえるだけの収入があれば、金融資産の取り崩しを先送りにできます。
アドバイス1で述べた生活費の削減ができれば、現在の収入でも年間130万円は貯蓄できることになります。仮に65歳まで同じ収入、生活費、年間貯蓄額であれば、1820万円貯めることができます。現在の貯蓄額と合わせて4620万円です。
65歳からの年金額が試算どおりに手取り95万円とすると、生活費の不足は118万円です。不足分は金融資産から充てていくと、ゼロになるのは39年後、ご相談者が104歳の時です。
あくまでも概算で仮定の話ですので、何歳まで働くのか、どれだけの収入があれば生活できるのかは、実態とは異なるでしょう。60歳までしっかり働き、その後はアルバイト的な働き方で年間100万円の収入を得るというのも、ひとつの考え方です。ただ、50歳からゆるやかな働き方になってしまうと、これまで貯めた金融資産は早い段階で目減りしていってしまうでしょう。
アドバイス3 収入が減るなら、もう一段の生活コストの削減を
もうひとつの考え方として、そこまでの収入を得る働き方は難しい、ということであれば、もう一段、支出の見直しをすることです。削減したくない項目だとは思いますが、年間60万円かけている趣味娯楽費を6~7割に抑え、その分を貯蓄に回すことも必要になってきます。さらに、自動車を保有し続ける限り、維持コストがかかり、買い換えもあと数回は必要になるでしょう。自動車を手放す判断を迫られることもでてくるでしょう。
「心身に無理のない仕事で最低限の収入を得つつ、自分の時間を大切にしたい」という気持ちは、十分に理解できます。しかしながら、60歳で完全リタイアは、難しいと思われます。健康第一ですが、せめて収入を維持するような選択をしていただきたいと思います。
また、親から相続予定のお金は、試算には加味していません。将来的に高齢者施設への入居を考えておられるようなので、その入居資金、月額利用料として大切に確保されておくことをおすすめします。
ご希望に添うアドバイスにならなかったかもしれません。今は仕事のプレッシャーでお疲れになられているようなので、健康にだけはくれぐれもご注意なさってください。
相談者「犬山ワン子」さんから寄せられた感想
具体的な金額で分かりやすくご教示いただきありがとうございます。キリよく50歳で……と考えていましたが、今すぐ転職して長く働くという考えがありませんでしたので、目から鱗でした! それでも厳しいとのことですので、より計画的に節約していこうと思います。※マネープランクリニックに相談したい方はコチラのリンクからご応募ください。(相談はすべて無料になります)
★マネープランクリニック編集部では貯蓄達人からのメッセージを募集中です★
教えてくれたのは……
深野 康彦さん
マネープランクリニックでもおなじみのベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金まわり全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。著作に『55歳からはじめる長い人生後半戦のお金の習慣』(明日香出版社)、『あなたの毎月分配型投資信託がいよいよ危ない!』(ダイヤモンド社)など
取材・文/伊藤加奈子