嫌だったことを連鎖させる心理
妻は、小学生のときはつらくて泣いたこともあるが、泣いたからといって許されるわけではなかったから、きれいにすることに集中したという。「結果的にそれは私のいい経験になったと言うんです。だったら子どもにやらせればいいと言ったら、『あなたを見ていると躾ができてないと思ってた。だからまずは掃除をきちんとやってほしかった』と。『子どもたちにもキッチンやリビング、窓拭きなどの掃除はさせている。子どもたちはきちんとやっているけど、あなただけはちゃんとやろうとしない。だから厳しく言ってるの』って。自分が嫌だったことを人にやらせる、しかも夫の躾ってなんでしょうね」
ユタカさんは苦笑いしながら言った。もちろんお風呂もトイレも掃除は重要だが、毎日、舐めるほどきれいにする必要があるのだろうか。共働きなんだから家事は手抜きして、家族で楽しい時間を過ごそうとしたほうがよほど建設的ではないのか。彼はそう反論した。
「そういえば妻は、楽しむことに対してどこか罪悪感があるみたいなんですよね。夏に家族旅行をしても、旅先で子どもたちに勉強させたり、自分も仕事のスキルアップのための勉強をしたりする。楽しむときは徹底的に楽しもうよと言ってもそれができないという。彼女自身もそうやって育ったからなんでしょうけど、今になってそういうことが明らかになるのはつらいですね……」
「親の支配」により完成された真面目な性格
本音を言えば、そんなふうに育ったことを正直に話してほしかったと彼は言う。もしかしたら結婚に至らなかったかもしれないが、そのほうがお互いに幸せだったという可能性もある。「妻の思い込みと支配によって、僕自身もかなり疲弊している。子どもたちも家事も勉強もしなくてはいけないとプレッシャーに感じている。もっと伸び伸び育てていこうよと、今も説得しているところです」
子どものうちから家事をさせるのが悪いこととは言えない。ただ、家事を「しなければいけないもの」と押しつけ、寝る間も惜しんでやらせるのは行きすぎだろう。
「まじめで神経質という妻の性格が、親の支配によるものだったというのが僕にはちょっとショックでした」
ユタカさんの説得によって、今、夫婦は一緒にカウンセリングに通っているという。時間はかかるかもしれないが、「もう少し妻自身が伸び伸びと生きてくれるようになればいいんですが」と彼は顔を曇らせた。