妻は僕の帰宅時にはベッドの中
家の中がうまく回っていないのはストレスになる。だが外食や市販の惣菜ばかりだと飽きてくる。結局、文句を言うより自分がやったほうが早いとマサトさんは思った。「僕が帰宅するころ、妻はすでに寝ていることが多いんです。真っ暗な部屋に電気をつけて、そこからひとりで夕飯を作って食べる。余れば冷蔵庫に入れておくんですが、次の日にはそれが空になっている。僕が作った夕飯を、翌日、妻が夕飯にしているということですよね。そこまで自分で作りたくないのかと苦笑いするしかありませんでした」
もともとユキコさんは「食」にはあまり関心がないようだった。マサトさんは、料理上手な母の影響で食べることが好きだし、栄養バランスを考えるのも苦にならない。
「週末はふたりとも休みなんですが、彼女はだいたい出かけてしまう。だんだん、どうして結婚したのかわからなくなっていった。年齢が違うから、やっぱりわかりあえないのかなと思ったり、彼女は結婚していること自体にメリットを感じているのかなとも思ってみたり」
妻とは結婚当初からレスだった
結婚当初からセックスも拒否されていた。無理強いはできないから、誘っては断られる屈辱に耐えていた。最初の1年でわずか2回、その後は一切関係を持っていない。「どうしてもできないの、行為自体が嫌いなのと言われたので、それきり誘っていません」
コロナ禍を経て、マサトさんの仕事はますます多忙になっている。とうとう、「せめてトイレとお風呂の掃除はしてほしい」と言ったら、ユキコさんは「じゃあ、私は洗濯するから」と言った。そして数日後、家には立派な洗濯乾燥機がやってきた。
「機械に頼れるほうを選択したんですね。トイレ掃除、風呂掃除はマメにやらないといけない。部屋の掃除も週末に僕がやっています。やるのはいいんだけど、なんだか腑に落ちないというか、ふたりで暮らしている意味がないというか。協力し合っている感じがない。共働きで子どものいない夫婦の暮らしって、こんな殺伐としたものなんでしょうか」
家事分担だけの問題ではない。ふたりしかいない家族なのに、まったく心が通い合っていない虚しさに、彼は気持ちが沈んでいるようだった。