どんなめでたいことだろうと、秘密にしておきたければ、話さないこと
秘密を守りたいのなら誰にも話さない。それに尽きる。とはいえ、「まだ内緒にしてね」と言いながら、親しいからついうっかり言ってしまうのもよくあることだ。
30代女性が経験した「妊娠アウティング」
本来、重要なことは自分の口から人に知らせたいもの。それも自分のタイミングで。他人から広まるのは本意ではないと思う人は多いはずだ。だが、今広まると困るが、親しい人にだけは伝えておきたい、あるいはうっかりその場のノリで言ってしまうということもある。たとえば妊娠。うれしいけれど、初期はまだ体調が不安定だから広まるのは困る。職場なら今後の段取りもあるから、まずは上司に伝えなければ。「私のときもそうでした。以前、流産したことがあるので、特に慎重になっていました。だけど職場でいつも私を気遣って仲良くしてくれる5年先輩のヨシエさんだけには、早く伝えたいと思ったんです」
タカミさん(36歳)はそう言う。今から2年前のことだ。29歳で結婚、30歳で妊娠したが初期に流産した。だからこそ、誰にも言うまいと思っていた。だがヨシエさんだけは別だった。
「ヨシエさんとはずっと別の部署で、それでも仲良くしてもらっていたんですが、4年前から同じ商品企画の部署になった。女性だけのチームで、ヨシエさんがチーフです。私は無謀な企画を結構出すんですが、ヨシエさんはどんなときもダメとは言わない。『どうしたら、それを形にできるか考えようよ』と言ってくれるんです。それで実際に形になり、当たった商品もあるんです。もちろん、チームで作った商品だけど、ヨシエさんは、私の企画があったからこそと褒めてくれた。常識の枠におさまらないところがいいんですと、上役にも言ってくれたりして。彼女は自分の手柄にしないんですよ、そこがみんなに愛されているんです」
「おめでたいことなんだから」
そんな大好きなヨシエさんだからこそ、タカミさんはいち早く妊娠を告げた。もちろん、「また流産するかもしれないから、もう少しの間、誰にも言わないでほしい」と頼んだ。ヨシエさんはしっかり頷いたが、数日後には違う部署の同期に「おめでとう」と言われた。それほど大きくない会社だから、どうやら社内中が知っているようだった。「体調も含め、自分のタイミングで自分の言葉で伝えるべき人に伝えたかったとヨシエさんに言ったら、『おめでたいことなんだからいいじゃない』とニコニコしてて。私の気持ち、ちっともわかってないんだとがっかりしました」
おめでたいことなら広めてもいい。そんな価値観が通用しない時代になっている。それより当事者の思い、当事者の希望を優先させるべきなのだろう。
>めでたいことなら言っていいのか?