「単なる付き合い」をやめていく
たとえば年賀状だけのやりとりや盆暮れの品物だけのやりとりをしている関係もある。よく考えてみれば、会うわけでもなく、安否確認だけを知らせるような間柄なら、やりとりがなくなってもかまわないのではないか。ユウコさん(56歳)は今はそう思っているという。6歳年上の夫が定年になった途端、お中元やお歳暮はパタリとこなくなった。仕事だけの関係とはそういうもの。
「夫は別の会社で再雇用されて働いていますが、今は盆暮れの贈り物はまったく来ない。実はそれが正しいのかもしれません。それを機に、贈り物だけの関係だった遠い親戚に『今後、お互いに贈り物はやめましょう』と手紙を書きました。相手からも賛同を得ましたが、逆にそれがきっかけで久々に会うことになり、かえっていい時間が過ごせました」
人間関係で大事なのは、会いたいと思う人に会って、お互いに楽しく過ごすことではないかとユウコさんは考えている。
「夫は利害関係のない友人だけでいいと言っています。社会的孤独に陥るからと、前職での関係に固執しがちだけど、学生時代の友人もいるし、今の勤務先にも飲みに行ってしみじみ話せる人がいる。友人は人数じゃない、どこまで深く話せるかだって。この年齢になったら、残り時間も多くはない。1日1日を充実させていくことがいちばん大事なのかもしれません」
老後世代の人付き合い「優先順位」は?
夫には父が、ユウコさんには母が存命だ。義父は夫の姉一家と暮らしているが、彼女の母は実家近くの施設で生活している。独身のひとり息子が仕事の関係で遠方に越したため、ユウコさんにも時間的余裕ができた。パートは続けているが、週3回程度にして、時間を作っては母のところへ通っている。「今は母と過ごすことが私にとっては大事な時間。年齢や状況によって、人付き合いの優先順位も変わってきますね」
本格的な老後に入ったら、一番大事なのは「夫婦の時間になるのかもしれないし、自分だけの時間になるのかもしれない」と彼女は言う。
自分にとって大事な付き合い、大事な時間を把握し、優先順位が低いものにかける比重を減らしていく。そうやってどんどんシンプルにしていったほうが心身ともに負担はない。
「いろんな人と付き合って世界を広げていく時期はもういいや、という気持ちになっています。広げるより深めていく年代になったのかもしれません」
いくつになっても人間関係を広げたい人もいるだろうが、ユウコさんのように深めていくのも楽しそうだ。熟年と言われる世代になったからこそできる「人付き合い」もあるのかもしれない。