実母と同居し始めたところで、恐怖の思い出が呼び覚まされてしまった
母のひとり暮らし「もうだめだと思った」
「母は私と仲がいいと周囲に言っていましたが、私は関係がいいとは思っていなかった。だけど、やっぱり母親を見捨てることはできなかった」そう言うのはチエコさん(46歳)だ。5年前に父が亡くなってから、ときどき実家を訪ねていたが、家の中が少しずつ、だが確実に荒れていくのを感じていた。通って掃除や片付けをすればすむという話でもなくなっていった。
チエコさんには、同い年の夫との間に高校生と中学生の子どもがいる。
「私も家庭や仕事があるので、1時間ほどの実家に日参するわけにもいかない。2年ほど前、2週間ぶりに訪れてみると、水切りかごに食器が積まれていた。母はいつも丁寧に拭いて棚にしまうはずなのに、それができてない。しかも洗ったお皿を見ると、洗い残しがひどい。バスルームも掃除してなかったんでしょう。面倒だからシャワーで済ませていたようで、ハエが飛んでいた。それを見て、もうだめだと思いました」
母の老いた母、介護するほどではない?
まだ介護が必要というほどではない。ただ、食事の支度や掃除など、手間のかかることが「面倒」になって放棄しているように見えた。「夫に相談したら、部屋があいているから呼べばいいよと。そんなにあっさり言ってくれるとは思わなかった。子どもたちも、小さいころからかわいがってもらったから『いいよ』って。うち、東京郊外の一軒家で、本当は夫が自分の親を引き取るつもりだったからちょっと広いんです。ただ夫の親は、数年前に相次いで亡くなって。夫は何もしてやれなかったと後悔していたので、私の母を呼べばいいと言ってくれたんでしょう」
チエコさん自身は、自分と母の関係を考えると若干の不安はあった。それでも見捨ててはおけないという思いが強かった。
>封印していたはずの恐ろしい記憶が蘇ってしまった……