あえて「非正規」を選ぶ若者が増えている?
非正規雇用をあえて選ぶ若者が増加中という総務省の調査結果がある。25~34歳を対象に、非正規の働き方を前向きな理由(例えば「都合の良い時間に働きたい」など)で選択する人が、10年前の調査より14万人増えて73万人に上っているという(2023年)。
バブル期の「フリーター」ブーム、その後のフリーターの“末路”を知っている世代からはこのニュースに「絶対やめとけ」「その先は地獄だぞ」などと否定の声が上がっているようだ。また、非正規雇用を望まない同世代からしても、このような傾向は信じがたいかもしれない。
非正規雇用は本当に不利なことばかりか?
会社が抱える仕事量によって、必要となる社員を増やしたり減らしたりできること、そして業務遂行に必要なスキルが十分にあり、会社に貢献してくれる社員を中長期的に会社に残していくこと、この2つの主たる目的に沿えば、会社にとって非正規雇用は有効な雇用手段であり、都合がいい(非正規から正規雇用に切り替えることもできる)。一方、非正規雇用の待遇はよくない、雇用が不安定だなど、個人にとっては不利な契約形態であるという指摘もある。
しかし、非正規雇用は本当に不利なことばかりなのだろうかというと、キャリアの築き方のプロセスやゴール設定次第で捉え方は異なるだろう。
働き方の価値観多様化で、正規雇用のあり方も変わってきている
正規雇用にだって、本来さまざまなリスクがある。正規雇用は、それらリスクへの対価を織り込んだ水準となっているから、非正規雇用よりも待遇が良くて当たり前だという見方もあるのだ。例えば、正規雇用に多いのが異動のリスクである。これは住む場所が強制的に変わることもあれば、自分がやりたい職種を継続できなくなるリスクもある。自分がこれまで注力してきたプロジェクトを途中で抜けなければならないという、やりがいの喪失リスクも孕む。
異動とはそういうものであり、しょうがないと割り切れる人にとっては、「異動による非継続性のリスク」は正規雇用で得られる数々のメリットよりも小さいと捉えられ、正規雇用を迷うことなく選択するだろう。「配属ガチャ」という言葉が若者の間で流行っているが、配属ガチャがあまり気にならない、もしくは慣れてしまった、そういう感覚を身につけなければサラリーマンなど長期間にわたってやっていられない、こうした考え方に落ち着いている人も決して少なくはないだろう。
その点、非正規雇用では、別のリスクはありながらも、「配属ガチャ」リスク、「勤務地ガチャ」リスクはない。正規雇用のような責任ある仕事や難しい仕事をしたくない、嫌ならいつでも辞められる、残業をあまりしなくてもいいといった、今までだと“ゆるい”ととられかねない価値観を重視する若者の傾向もあるかもしれない。これらの優先順位が高い人からすれば、非正規雇用も人生の選択肢に入ってくる。
実際、転職という選択肢も定着し、異動によってキャリアや生活圏が自分の望みに反して変わってしまったことが原因で、会社を辞める人が増えているのも事実である。このような背景からも、多くの企業ではジョブ型採用や社内異動の自己申請制度などが増えてきた。
従来、オープン採用(特定の職種や勤務地を指定することができない採用)が一般的だった新卒採用においても、ジョブ型採用(特定の職種を限定して応募を受け付ける採用方法)や、全国転勤を伴う全国型採用と、特定のエリアでのみ働くことが限定されたエリア採用などの選択肢を用意する企業も増えている。
正規雇用のあり方にも大きな変化・多様化が生まれてきているほどに、働き方に対する価値観は多様化してきているのだ。非正規雇用を積極的に選択する若者たちが増えているのも何も不思議ではないと思えてくる。
若者の「あえて非正規」、反対意見は聞き流してもいい
そのうえで、若者の「あえて非正規」ブームには多くの人生の先輩が老婆心から反対意見を出しがちだが、あまり聞き入れる必要はないといえる。価値観の多様化もさることながら、いつの時代も、若い世代はさまざまな事情で自由に行動したい理由がある。例えば海外で働きたいという人は期限付きでワーキングホリデーに参加する。それが新卒のタイミングを逃すことになっても、今しかできないと思えば実行する人はいつの時代にもいるものだ。
特にそうしたやりたいことや自分の意思・価値判断がなければ、既定路線から外れると損をするぞ、というある意味つまらないアドバイスしかできなくなる。他人には理解できない行動は自分にもたくさんあるはずだ。
若者が「あえて非正規」を選択することによって自分らしさを保ち、夢の実現に近づくというのなら、他人がそのことに対してネガティブな評価を下す必要は全くない。正規雇用が多様化していることを見れば、従来の正規雇用という選択には多くのやりにくさ、制約があったことも否めないのである。
もちろん決断が行き当たりばったりであると貧乏くじを引くときもあるが、自分の意思でとった遠回りに意味を持たせ、人生をその先どうするか、それはすべて本人次第だ。
人生に目的を持ち、夢を抱き、社会に貢献しながら自己実現を果たす。その過程において、人生の選択は多様化しており、損得勘定は人それぞれ異なる。損得勘定は稼ぎの大小やコストパフォーマンスだけで測るものではない。あえて言うなら、働き方の多様化はさらに進化していくとよいのだろう。