高齢になると食が細くなるのはわかるが、それにも増して社会的孤立、老いに対する精神的ストレスなども影響してくるのではないだろうか。
70歳の母が「ひとり暮らし」で変化
父が亡くなったあと、ひとり暮らしを楽しんでいたはずの母。ところが2時間かかる実家をある日、ふいに訪ねてみると、母はひとりでごはんと漬物だけの食事をしていた。そう話してくれたのはエリコさん(46歳)だ。「私も受験生をふたり抱えて、なかなか実家に行けなかったんです。前に行ったとき、なんとなく家全体が薄汚れているのが気になっていた。それで連絡もせずに行ってみたんです。そうしたらキッチンには洗ってないお皿が重ねてあって、母はリビングでテレビを見ながら夕飯を食べていた。テーブルを見ると、ごはんと漬物くらいしかない。
いつもこうなのかと尋ねると、『今日だけよ』と強気の発言。冷蔵庫も冷凍庫もあまり食材が入っていませんでした」
母はまだ70歳になったばかり。インターネットも使えるのだから、スーパーに行けないならネットで買えばいいと言うと「そうね」と力なくつぶやいた。しばらく話していると、「もう食事の支度をするのが億劫なんだよ」と本音を漏らす。
料理上手な専業主婦として生きていた母
「母は専業主婦で、夫と子どものために何でもするタイプでした。父はネクタイひとつ自分で選んだことがないと思う。私たちが小さいときはおやつは手作り、大人になってからもうちに冷凍食品はなかった。母は餃子の皮から手作りする人だったから」エリコさんは地元の短大を出て就職、28歳で結婚するまで実家で暮らした。その後、3歳違いの妹も結婚して家を離れ、それから両親はふたりで暮らしていた。父が仕事から完全に引退したのは68歳のときで、3年後に亡くなった。今から2年前のことだ。
以来、母は近所の友人とハイキングに出かけたりして楽しそうにしていたから、今もすっかり元気だと思い込んでいたとエリコさんは言う。
「ところがこの半年ほど、電話しても前ほどしゃべらないし、なんだかおかしいなとは思っていたんです。いつの間にか、家にこもりがちになっていたみたい。しかもあんな食事じゃ元気が出るわけもない」
エリコさんは共働きのため家庭と仕事で手一杯だが、夫に事情を話してみた。夫は、早く帰れるときを作るから少しお義母さんを見てあげたほうがいいよと言ってくれた。
>母が呟いた言葉が「悲しかった」