脳科学・脳の健康

「昼寝をすれば、夜は短時間睡眠で大丈夫」は危険!夜の睡眠が高タイパと言えるワケ

【脳科学者が解説】「二度寝が一番気持ちいい」「昼寝は短時間でスッキリする」といった気持ちから、日中の方が夜間の睡眠よりも「タイパがいい」と思っていませんか? それは大きな誤解です。夜の睡眠こそ「高タイパ」と言える理由を、わかりやすく解説します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

昼寝する女性

短時間の昼寝で、夜の寝不足を補うのは難しい!? 日中と夜間の睡眠の質の違いとは


私たちは、主に夜眠ります。これは当たり前かもしれませんが、なぜなのでしょうか? 日中に短時間でも「スッキリ感」が得られる昼寝をすれば、夜はあまり寝なくても大丈夫なのでしょうか? 通常、私たちは日中に昼寝をしたり、疲れて寝落ちしてしまったりしても、夜間ほど深く長い眠りにつくことはできません。日中と夜間の睡眠の違いについて、わかりやすく解説します。
 

夜は長時間ぐっすり眠れるのはなぜ? メラトニン、覚醒中枢のはたらき

毎日の規則正しい覚醒と睡眠のサイクルを形作るのに重要な役割を果たしているのが、脳の中の「松果体(しょうかたい)」という部分で産生・分泌される「メラトニン」というホルモンです(※1)。このホルモンは体内時計を調節して睡眠を促す役割を果たしています。また、松果体は目の神経と間接的につながっていて、目に光が入るとその情報が松果体に伝わり、メラトニンの産生・分泌が抑制されるようになっています。そのため、日中の明るい環境ではメラトニン量が低下して睡眠が起きにくく、夜の暗い環境ではメラトニン量が増加して眠りやすくなるのです。

この説明は多くの成書や記事にも書かれており、よく知られた事実です。では、そもそもなぜメラトニンが増えたときに、眠りやすくなるのでしょうか?

私たちの睡眠は、脳の中で覚醒を維持するためにはたらく「覚醒中枢」と、覚醒中枢にブレーキをかけることで眠りをもたらす「睡眠中枢」のバランスで成り立っています。覚醒中枢に相当する神経系では、ノルアドレナリン、セロトニン、ヒスタミン、アセチルコリン、オレキシンといった神経伝達物質が分泌され、大脳皮質に広く働きかけ、意識レベルを高めて覚醒を持続させる役割を果たしています。一方の睡眠中枢は、具体的には視床下部の視索前野というところに存在し、GABAという抑制性の伝達物質を分泌することで、覚醒中枢を抑制する役割を果たしています。

メラトニンは、この覚醒中枢にブレーキをかける睡眠中枢のGABAの働きを強めるのです。GABAの合成量を増やしたり、受容体レベルでGABAの抑制作用を増強したりすることが報告されています。つまり、メラトニンが多い時の方が、睡眠中枢が覚醒中枢にブレーキをかけやすくなると言えます。日中はメラトニンが少ないので、覚醒中枢へのブレーキが弱く、短時間の昼寝はできても長時間の睡眠には至りにくいのです。
 

「昼寝や二度寝の方がタイパがいい」は誤解! 重要なのは「夜間の睡眠」

ただ、みなさんの中には、「夜の睡眠と違って、昼寝は短時間でもスッキリする」「朝の二度寝が一番気持ちいい」と感じる方もいらっしゃることでしょう。そういう方は、「実は夜よりも昼の方が眠りやすい」「日中の睡眠の方が短時間で深く眠れて、質がいい」と感じることもあるかもしれませんが、それは残念ながら誤りです。

たとえるならば、スマホの充電が残り3%しかなくハラハラしているとき、ごく短時間の急速充電ができて残り20%まで回復すれば、しばらくは安心して使える!という気持ちになりますね。「昼寝」や「朝の二度寝」で感じる気持ちよさは、これと同じようなものです。100%の状態には程遠くても、脳が感じる疲れがとりあえず解消することで、一時的にスッキリした感覚になるだけなのです。意識できない脳や体の疲労まで、十分に回復するわけではありません。しばらくすると、また電池切れに近い状態になってしまいます。

脳や体をしっかりと休めて回復するためには、長い時間をかけて、しっかりと深い眠りをとる必要があります。そのために、メラトニンが増える夜間に、覚醒中枢にブレーキをかけ、深い眠りにつくことが大切なのです。健康のためには、夜にしっかり質のよい睡眠をとって、心と体をフル充電することが大切だと心得ておきましょう。

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※1 Q. 毎朝起きるのがつらいです。どうすれば朝に強くなれますか?
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