妻の「そうね」「そうよね」が謎
このところ、妻は「娘の小学校受験」に興味をもっているようだと彼は言う。それももちろん、ママ友に吹き込まれたのだ。「中学受験ならわかるけど、小学校受験はまだいいでしょと僕は思っています。妻は『そうよね、早いわよね』と言いつつ、小学校受験のための予備校やお受験本を買ってくる。それを見て僕はため息をつくばかり。ケンカにならないことがいいわけではないと、ようやくわかってきました」
つい先日、妻が娘を連れて実家に行ってくるというので、マサルさんもひとりでふらりと自分の実家に行ってみた。
「ふいに行ったら、もう家の前で両親の口げんかが聞こえてくるんですよ。笑っちゃいました。結婚して40年以上も経つのに、いまだにけっこうな激しさでケンカしてる。僕が入っていくと、『あ、いいところに来た。マサル、聞いてよ、お父さんたらね』と母。『いや、マサルを味方につけるなんて卑怯だぞ』と父。
子どもかよと思いましたが、結局、何が原因かと尋ねるとふたりとも首を傾げてる。両親が結婚以来、近所関係もほとんど変わってないんですが、隣の家の人がやってきて『あ、ケンカ、終わったの? これ、どうぞ』と和菓子を差し入れてくれました。それからみんなでお茶を飲んで、バカ話をして笑って。僕の育ったところは下町で、いまだに近所付き合いがそんな感じなんです。隣家の人は『マサルちゃん、またね』とすぐに帰って行った。そういうところは気遣いしてくれる」
夫婦ともに互いの“本性”を見せ合って
その日は両親とくだらない話ばかりして、独身で仕事ばかりしている妹が帰ってくるのを待ってすき焼きをした。妹は「おにいちゃんが来てるっていうから」とマサルさんの大好きな地元のケーキを買ってきてくれた。「食後、たまにはオレが片づけるよと妹とお皿を洗っていると、また両親がぶちぶちケンカしてる。いいかげんにしろよと言ったら、父が『いいんだよ、オレらは好きなこと言い合ってるんだから』って。妹も『あれが健康の秘訣らしいよ』と笑っていました。やっぱり夫婦は、こういうやりとりができるほうがいいのかなあとしみじみ思いましたね。うちの両親はケンカしすぎだと思うけど……」
結婚生活が続く夫婦は、長い時間を経ながら知らず知らずのうち自分たちの居心地のいい関係を築いていくのかもしれない。
「うちはまだまだお互いに無理をしているのかもしれない。もしかしたら僕が妻に無理を強いているところもあるのかなあ、と思うところがありました。これから少しずつ、妻も僕も本性を見せ合っていかないといけないんでしょうね」