年金と貯金の切り崩しで生活をしていくことは可能?
皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。今回のご相談者は体調を崩し会社を退職した61歳の男性です。ファイナンシャル・プランナーの深野康彦さんがアドバイスします。退職してこれから年金と貯蓄でやっていける?
まっちげさん
男性/無職/61歳
中部地方/持ち家(マンション)
■家族構成
一人暮らし
■相談内容
体調を崩し、今まで勤めていた会社を退職しました。今年より実質収入が0円となります。退職金は100万円程度です。
預貯金のほかに払込済みの死亡保険が1000万円あります。65歳からの年金額は年間で170万円程度の試算となっています。
持ち家マンションの支払いは完了していますので、住居に関わる支払いは管理費・修繕積立金・駐車場代の合計となります。今乗っている車が5年経過していますので、あと1回は車購入費用として250万円程度を考えています。
キッチン・風呂・トイレの水回りは5年程前にリフォームしました。子どもはすでに成人して働いていますので、子どもにかかる費用はありません。このような状況で、65歳まで貯金を切り崩しながら生活をしていき、その後も年金と貯金の切り崩しで生活をしていくことは可能でしょうか?
不安で眠れない生活を送っています。どうぞ、アドバイスのほどよろしくお願いいたします。
■家計収支データ
■家計収支データ補足
(1)現在の状況について
退職しており失業給付は離職票が届きましたら手続きを進める予定です。
(2)年間でかかる支出について
固定資産税7万円、車検・自動車税・自動車保険20万円、火災保険・地震保険もあと3年くらいで満期を迎えますので、ある程度の金額を予定しておかなくてはなりません。加えて、市県民税で年間10万円程度、任意継続した健康保険で年間36万円(月割で3万円)程度の負担が必要となります。よって、毎月の支出は20万円程度になるのではないかと思っています。
(3)貯蓄について
子どもの将来を考えて、昨年から暦年贈与を年間110万円ほどしております。暦年贈与を可能であれば、10年間くらいは行いたいと思っておりますので、実質3000万円くらいが貯蓄になるのではと考えております。
(4)投資について
NISAは毎月10万円の120万円に設定。貯蓄からのスライドです。株式投資は行うかもしれませんが、長期保有の予定はありません。
(5)保険について
・共済A=毎月の保険料6000円
・共済B=毎月の保険料6000円
・がん保険(終身)=毎月の保険料3000円
(6)今後の生活について
メンタル面で体調を崩して、休職をしてからの退職となりますので、半年~1年程度休養して、可能であれば、年金が貰える65歳まで簡単なアルバイト程度をおこない、7万~8万円程度の収入が得られればと考えています。子どもが関東で一人暮らしをしていますので、年1~2回程度顔を見に行きたいと思っています。
■FP深野康彦の3つのアドバイス
アドバイス1 1年休養し、2年目から収入を得れば65歳時点で3000万円は残せる
アドバイス2 公的年金の不足分を抑えられたら、それほど心配しなくて大丈夫
アドバイス3 暦年贈与よりも自由に動かせるお金をキープすることが大事
アドバイス1 1年休養し、2年目から収入を得れば65歳時点で3000万円は残せる
すでに退職されていますので、年金受給開始の65歳までの生活費は貯蓄からの取り崩しになります。1年は失業給付(基本手当)を受けつつ、現状の支出を貯蓄から手当てします。毎月20万円として年間で240万円。固定資産税など年間でかかる支出を加味すると270万円を見込みます。4年間で1080万円が必要となります。もし2年目から7万円ほどの収入が得られたら年間で84万円、3年で252万円は支出を減らすことができ、都合828万円を貯蓄から使うということになります。この間、車の買い換えがあれば250万円を加算し、最終的に65歳時点で1080万円を貯蓄から差し引くことになります。
現時点での金融資産は4150万円ですから、65歳時点での金融資産は3070万円となります。
アドバイス2 公的年金の不足分を抑えられたら、それほど心配しなくて大丈夫
65歳から公的年金の受給が始まり、見込み額が170万円とのことなので、手取りは140万円ほどになると思われます。年間の生活費が270万円で変わらなければ不足分は130万円。3070万円の金融資産が底をつくのは23年後の88歳です。少々不安が残りますが、今後の生活費のなかで削減できるものもあり、支出が抑えられれば、それほど心配なさる必要はありません。
現在は退職したばかりなので、健康保険は任意継続されていますが、来年からは国民健康保険への加入となり、所得に応じた保険料になりますので、現在より負担は減ります。所得税、住民税も同様です。また、加入している保険についても割り切ることができれば解約してもいいでしょう。少なくとも共済はどれか1つだけでも十分です。
こうした見直しができ、年間の不足額を100万円程度に軽減できれば、金融資産は95歳ぐらいまでは大丈夫でしょう。
アドバイス3 暦年贈与よりも自由に動かせるお金をキープすることが大事
以上のように、簡単ではありますが試算してみると、過剰に心配する必要はありませんが、子どもに暦年贈与する余裕はないと考えていただいたほうがいいかと思います。子どもに資産を残したい気持ちはわかりますが、いずれにしても相続が発生すれば、持ち家のマンションと金融資産は子どもに引き継がれますし、その時点のマンションの評価額、現預金の残り次第ですが、おそらく相続税がかかることはないでしょう。払い済みにしている生命保険も受取人が子どもであれば、保険金は非課税で受け取れます。どうしても暦年贈与をしたいということであっても、今年から税制が変わり、暦年贈与については厳しくなりましたので、注意が必要になります。税金については税務署や税理士に確認してください。今もこれからも、まずはご自身の生活を優先し、現預金が不足することがないようにしてください。
そう考えると、NISAに全力で投資をするのはおすすめできません。毎月5万円、年間60万円程度にとどめ、現預金はキープしておくことが大切です。また投資をするにしても70歳ぐらいまでにし、その後は運用指図だけにし、適宜、売却しながら生活費に充てていくなど、投資したその後もきちんと考えておかれるといいでしょう。
お子さんも生前贈与を受けるよりも、元気な顔を見せにきてくれるほうがいいのではないでしょうか? しっかり睡眠をとって、健康第一の生活を送られることを望んでおられると思いますよ。
相談者「まっちげ」さんから寄せられた感想
深野先生、ご丁寧なアドバイスをいただきありがとうございました。ご指摘のありました、NISAなどの件は私自身も迷っていたところです。休養後、仕事で収入を得ることにより不足分を補填することでのシュミレーション、自由に動かせるお金のキープ等参考になることばかりでした。体調を壊しての退職ということもあり、精神的に弱っていることも多く自分自身の生活の不安と子どもの将来を考えすぎていたのではないかと思います。最後のお言葉は今の私にとっては何よりも温かく、励みになる言葉でした。いただいたアドバイスを参考にしながら、今後の生活に役立たせていただきたいと思います。ありがとうございました。※マネープランクリニックに相談したい方はコチラのリンクからご応募ください。(相談はすべて無料になります)
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教えてくれたのは……
深野 康彦さん
マネープランクリニックでもおなじみのベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金まわり全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。著作に『55歳からはじめる長い人生後半戦のお金の習慣』(明日香出版社)、『あなたの毎月分配型投資信託がいよいよ危ない!』(ダイヤモンド社)など
取材・文/伊藤加奈子