なぜ災害時の非常持ち出し袋に「お薬手帳」を入れるべきなのか

【薬学部教授が解説】地震や台風などの災害に備えて、非常用持ち出し袋に防災グッズをまとめている方は多いと思います。持ち出し品のリストにぜひ加えていただきたいのが「お薬手帳」です。なぜお薬手帳が、避難生活で命を守る役割を持つと言えるのか、わかりやすく解説します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

 
防災グッズとおくすり手帳

常備薬だけでは不十分? 避難先で「お薬手帳」が重要な理由とは


地震や台風などに備えて「非常用持ち出し袋」を準備している人は多いと思います。被災後に命を守るために、水や非常食、救急セット・常備薬などに加えて、ぜひ持ち出しリストに加えていただきたいのが「お薬手帳」です。その理由を解説します。
 

避難所で深刻な「薬不足」。持病悪化による災害関連死の報告も

大きな災害に見舞われた場合、多くの人が避難生活を送ることになります。阪神淡路大震災、東日本大震災と同様に、2024年1月1日に起きた能登半島地震でも多くの方が避難所での生活を強いられています。

そして現在危惧されているのが、避難所での災害関連死です。すでに報道で目にされているかもしれませんが、避難所には高血圧や糖尿病などの持病がある高齢者の方も多く、今後、持病の薬の不足による心臓病リスクなどが上がる可能性が懸念されています。

災害時は、かかりつけの病院や薬局などが機能停止状態になることも多いです。糖尿病や高血圧などの薬が必要な方が、ご自身の薬の詳細がわからず、治療が継続できないといった問題がしばしば起こります。新たに処方薬を手に入れるためには病院受診が必要ですが、過去の災害では「お薬手帳」を持っていた方に限り、特例的に受診をすることなく薬を受け取ることができました。
 

なぜ「常備薬」だけでなく、「お薬手帳」を持つべきなのか

災害時の持ち物に「常備薬」を入れておくことはもちろんよいことですが、数に限りがありますし、なくなったときに同じ薬がすぐに処方してもらえるとは限りません。同じ病気なら、誰にでも同じ薬が処方されるわけではないのです。病名が明らかで、医師に診てもらえたとしても、年齢や性別に加えて、過去の病歴、肝臓や腎臓の機能などの違いによって使用できる薬は異なります。十分な検査を行えない状況の初診だけで、代替薬が選択できないこともあります。薬歴が記された「お薬手帳」があれば、そのような非常時でもスムーズに代替薬をもらうことができるのです。

「お薬手帳」には、処方された薬の名前・量・日数・使用方法などが記録されますが、自分がドラッグストアで購入・利用した市販薬の情報や、日常的に利用しているサプリメントや健康食品などの情報を自分で書きこむこともできます。アレルギーの有無や、過去にかかった病気、体調の変化なども、可能な限り書き込んでおくと、非常時に医療を受ける際も、とても役立つ情報になります。普段の通院でお薬手帳を使うことが多く、持ち出し袋に入れると不便という場合は、コピーでも構いません。いざというときに備えて、ぜひ「防災セット」と一緒に「お薬手帳」も準備されておくことをおすすめします。

さらに詳しく知りたい方は、「お薬手帳のメリット・活用法…自分で情報加筆も上手な使い方」をあわせてお読みください。
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