ショートステイ後、夫は「私に杖を投げつけた」
もちろん介護保険を使ってヘルパーさんには来てもらっているが、時間は限られており、夜間はむずかしい。そのためサカエさんは、万年睡眠不足に陥っている。「デイサービスやお風呂のサービスもあるんですが、夫は嫌がるんです。風呂にはひとりで入れるといって以前、転んだことがあるので、お風呂は私が介助しながら入れています。夫は大柄なので私がつぶれそうですけどね」
顔に不安と疲労が張り付いたような表情で、サカエさんはそう言った。あまりに疲れたので、昨年、ショートステイに行ってもらったことがある。だが帰ってきてから夫は荒れた。
「私に杖を投げつけたんです。見捨てられたと思ったのかもしれません。このところ認知症も出てきて、私の言葉を理解していないと思うことも多い。もともとの性格が荒いところもあるので、認知症のせいで人格が変わったのか、もともとの性格が強く出ているのか、私にもわからないところが多々あるんです」
ただ、ショートステイに行っている間、サカエさんは数年ぶりによく眠れたという。本当ならまた行ってほしいのだが、夫は「ここにいる」と断言している。
「お金があれば介護保険を使わずに人を頼んだりもできるんでしょうけど、うちはこれ以上、お金を使えない状態。年金だけで暮らしていくしかない」
「頼れない性格」で鬱々、夫に支配され続ける日々
彼女自身も、人に相談するのが苦手で、ケアマネともあまり連絡をとりあっていないのだという。だから「誰にも頼れない」ということになる。「子どもたちには愚痴も言えません。みんなそれぞれ大変みたいで。長男は会社が一時期、倒産寸前だったようだし、長女は夫の両親と同居なので、もうそれだけで大変そうだし。以前は近所の人たちと交流もありましたが、今は外へ出ると、みんなに詮索されそうで怖くて……。先日は夫の寝顔を見ながら、この人も私も楽になったほうがいいんじゃないかとさえ思いました」
介護問題をひとりで抱え込むと、気分が鬱々としてくるものだ。いつまで続くのか、夫に支配されているような気分にもなるだろう。
「冷たい人間だと思われるかもしれませんが、さっさと離婚しておけばよかったと後悔しています。私も高齢者と呼ばれる年になりましたから、このままだと共倒れになるのはわかっている。でもそうなれば誰かが何とかしてくれるかなと思ったり」
早く相談できるところに相談したほうがいい。もっとケアマネに細かく相談し、どうしても相性が悪いと思うなら、ケアマネを代えることも検討してみるしかない。残りの人生がどのくらいあるかわからないが、せめて夫も彼女も納得のいく生き方を模索するしかないのではないだろうか。
※参考:厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査」