横暴な夫との離婚を考えていた矢先に
夫にとって私は「妻という持ち物」に過ぎない
サカエさん(65歳)が、5歳年上の夫の介護をするようになって3年がたつ。脳梗塞で半身麻痺が残る夫の生活全般を支えている。「もともと夫は横暴な人でした。付き合っているときは優しかったのに、結婚したら急に威張りだして。専業主婦でいられるのは誰のおかげだとよく言われたけど、働くことに反対したのは夫のほう。妻は万年筆やバッグと同じように自分の持ち物だと思っているんでしょう。万年筆の手入れはよくしていましたけど、私のケアはいっさいしなかった」
短大を出て就職した会社で知り合い、26歳のときに結婚。ふたりの子を産み育てた。子どもたちはすでに家庭を持ち、どちらも遠方で暮らしているから、子どもには頼れない。
「しばらくリハビリ病院にいたんですが、あまりリハビリをしようとしなかったし、本人がどうしても家に帰るというので退院したんです。家でリハビリをし、通院もするという約束だったけど守らない。家では『おい』と私を呼びつければなんとかなると思ってる」
そもそもは夫が定年になったら離婚も考えていた。もしこじれて裁判になったとしても、子どもたちが協力してくれるはずだった。ただ、最後に決断できなかったのはサカエさん自身だ。経済的なことも考えたし、たったひとりで老後を過ごすことに不安も覚えた。
62歳、離婚も考えた“横暴”夫の介護生活へ
「ぐずぐずしているときに夫が倒れてしまった。当時は、弱気になった夫を支えて励ますしかなかったんです。だけど夫は麻痺が残るとわかると、今度はヤケになった。病室から飛び降りようとしたこともあります。プライドが高い人だから思うように動けないことで自暴自棄になったんでしょう。それも励ましながらなんとかがんばってきたんですが、退院してからはずっと居丈高のままですね。私を手足だと思っているんでしょう」家の中でも杖を使ってゆっくり動けば自力で歩けるのだが、お手洗いに行きたいときなどは本人が焦っているので、ついサカエさんが手を貸すことになる。そうしているうちに、動くときは妻が支えて当然、ほしいものがあれば呼びつけて当然となった。
「私自身、介護の基本的知識もないままでしたから、夫の言いなりになるしかなかったんですよね。言い訳にしかなりませんが」
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