62歳女性が実母の介護を抱え込んだ理由
5年前に父を見送り、その後、介護が必要となりそうだった母を、チサトさん(62歳)は自宅近くに呼び寄せようと思っていた。「ところが母がイヤだと。そのころはまだ介護というほどのことはなかったから、長く住んでいる自宅にいたかったんでしょう」
しかたなく、週末だけチサトさんが実家に戻って常備菜を作ったり掃除をしたりした。母は洗濯はしたし、掃除機もかけていたが、細かいところは埃がたまっていたし、料理はほとんどしなくなっていた。
「うちの母の場合ですが、とにかく料理が面倒になったみたい。ごはんを炊いて、あとは梅干しに佃煮くらいで食べ終えてしまう。遅く起きる人なので、朝昼兼用にはパンだけ。お腹がすくとビスケットなどを食べていたようです。もうちょっと栄養を考えないとダメだよといったのですが、当時、82歳の母は『あたしはさんざん家事をやってきた。もうやりたくない』って。
家事というより、自分が元気に生きていくための料理なのだからと言い聞かせましたがダメでした。だからおかずだけの宅配を頼んだこともあるんです。でも味が濃いだの口に合わないだのと言うのでやめました」
当時、チサトさんはまだ仕事をしていた。定年まで3年というところで辞めてしまうのはもったいない。だから週末だけ実家に通っていたのだ。姉がいるのだが、姉の自宅から実家までは片道3時間かかる。チサトさんは1時間半で行ける。だから姉に無理矢理来いとは言えなかった。
口“だけ”出す姉からのプレッシャーが辛い
「ただ、姉は頻繁に母と電話で連絡をとっていたんです。母の愚痴や根拠のない私の悪口などを聞いて、『あんた、もうちょっと優しくしてあげなさいよ』と言ってくる。これがじわじわとプレッシャーになるんですよね」姉とは昔から折り合いが悪かった。今さら口だけ出すのはやめてほしいと思ったが、揉めるのも面倒なので黙っていたという。
「私が母の面倒を見ていたのは、他に誰もいないというのもあるけど、父のときにすべて母に任せきりだったんですよ。父は最後は家でほぼ寝たきりになった。それを母は3年間、ひとりで面倒を見ていた。その負い目みたいなものが私の中にあった」
なぜ負い目を感じてしまうのかはわからない。だが、昔から父に「仕えてきた」母がかわいそうだとは思っていた。長じるにつれて、それは父だけが悪いわけではなく、夫婦ふたりの問題だと感じるようにはなったが、そんな父の介護をする母について、見て見ぬふりをしてきたことに後ろめたさがあったのだ。
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