老後資金、保険の見直し、住宅ローンで悩んでいます
皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。今回のご相談者は、49歳、シングルマザーの女性会社員の方。お子さん2人の教育資金にめどが立ち、自身の今後のことを考え始め、老後資金の準備や住宅ローンについて悩みが出てきたとのこと。ファイナンシャル・プランナーの深野康彦さんがアドバイスします。老後や住宅ローンの悩みがでてきました
苺さん(仮名)
女性/会社員/49歳
北陸/持ち家・マンション
■家族構成
長女(私立大学3年/21歳)、次女(私立高校1年/16歳)
■相談内容
毎回お金の相談の記事を食い入るようにみています。参考になったり反省したりしながらみています。
シングルマザーになって11年、気持ちと時間に余裕ができた今、お金についてじっくり考えるようになりました。
早速ですが3点相談したく。また、今後のアドバイスもよろしくお願いします。
1. 現在の低額なお給料でも定年まで生活ができるのでしょうか。転職を希望していましたが、なかなか決まらず諦めました。
2. 住宅ローンをネット銀行変動型に乗り換えるか迷っています。手数料を考えればこのまま地方銀行変動型の方がいいのでしょうか? それとも乗り換えず、下の子が就職した時点で繰り上げ返済をどのくらいした方がいいのか、教えてください。
3. 自分で入りながら保険がとても多いと思います。先生はどう考えますか?
児童扶養手当4万4000円は満額支給で次女18歳の年度末までです。また子ども2人は返済義務がない奨学金を支給されています。
長女が大学を卒業した際には、このまま一緒に暮らし生活費をいれてくれるようです。
■家計収支データ ■家計収支データ補足
(1)教育費の内訳
長女=年額103万5000円(月割8万6250円)
次女=月額5万3000円
(2)奨学金の支給額
長女=給付型奨学金が年間70万円支給(大学卒業まで継続)
次女=高等学校就学支援金が月3万3000円、給付型奨学金が月5万9000円
(3)次女の大学進学における奨学金給付
長女同様、給付型支給を受けられる予定。想定される金額は大学1年時に112万5000円、2~4年時に年間70万円。
(3)ボーナスの使い道について
固定資産税7万4000円、クルマの維持コスト(税金、保険、車検など)12万3000円、残りは2年に一度の旅行費用と貯蓄
(※)2年後に火災保険料の支払い12万円あり
(4)加入保険の内訳
[相談者]
・医療共済(入院8000円、他に手術、先進医療特約)=毎月の保険料2100円
・生命共済(死亡保障1000万円、入院5000円、保険料10年ごとに更新)=毎月の保険料2850円
・総合共済(病気死亡1000万円、病気入院1万1000円、三大疾病特約で三大疾病は入院1万円加算とがん診断給付金100万円)=毎月の保険料7400円
・収入保障保険(保険期間61歳、月10万円)=毎月の保険料3340円
・終身保険=保険料一括払済(300万円)
・個人年金保険(65歳から15年確定、年金額29万2600円)=保険料全期前納400万円
[長女]
・医療共済(入院8000円、他に手術、先進医療特約)=毎月の保険料2100円
・生命共済(死亡300万円、入院5000円、保険料10年ごとに更新)=毎月の保険料640円
・医療保険(入院5000円、他に手術、先進医療特約)=毎月の保険料2100円
[次女]
・こども共済(入院1万円、病気死亡500万円、扶養者事故死亡700万円)=毎月の保険料2100円
・医療保険(保障内容不明)=毎月の保険料1370円
・終身保険=保険料全期前納(213万円)
(5)転職について
転職を希望していた理由は、職場環境、待遇が良くないため。従業員同士、みんなで助け合っているのが唯一の救い。ただ転職活動をしても、小さい会社はどこも同じだろうな、と思い始め、それなら今の職場で定年まで続けていこうと考えている。
(6)現在の職場ついて
昇給は期待できない。退職金なし。60歳定年、再雇用制度はあるが、定年後は他の勤務先にてパートを希望。
(7)住宅ローンの詳細
・現在のローン残高/750万円
・完済年月/2055年2月
・変動/0.65%
(8)クルマの買い替えについて
今のところ、買い替え予定なし。現在、走行距離8万キロながらまだ乗るつもり。買い替えの場合は中古で60万円程度を想定。
(9)これまでの厚生年金の加入期間
29年間。
■FP深野康彦の3つのアドバイス
アドバイス1 60歳以降のパート収入によって老後は大きく異なる
アドバイス2 保険料も保障も過大な保険の見直しは必須
アドバイス3 ポイントは現状の収入アップか60歳以降のパート収入
アドバイス1 60歳以降のパート収入によって老後は大きく異なる
ご相談拝見しました。給付型奨学金等でお子さん2人の教育費は確保できていることは、何よりです。苺さんのこれまでのご苦労やお子さんたちの勉強の頑張りが、とてもいい形になったと感じます。さて、ご相談ですが、まずは今後のキャッシュフローを見ていきます。その前提として、収入となっている奨学金等と支出の教育費はともに考慮しません。収入は定年まで現状のまま。基本的な生活費は変わらないとします。
すると、月の手取り収入は15万円、対して支出は18万円ほど。約3万円の赤字です。ボーナスから、固定資産税とクルマの維持費で20万円が固定支出として捻出されますので、残りは10万円。これを生活費の補てんに回しても年間26万円の赤字ということになります。
定年までの11年間で約280万円の赤字。結果、現在の手持ち資金は目減りして、60歳時の金融資産はざっと630万円となります。
ただし、保険料を前期全納されている、ご本人とお子さん名義の終身保険が各1本ずつ、それにご本人名義の個人年金保険の計3本があります。仮に、終身保険の解約返戻金=前期全納された保険料とすれば、個人年金保険の年金額と合わせて約950万円。つまり、一部前倒しではありますが、この額を先の630万円と合算した約1580万円が、確保できている老後資金ということになります。
さて、60歳になれば、お子さんは独立され、1人暮らしとなることで今より多少生活費が軽減されるはず。その生活費を年間200万円、さらにボーナスから捻出していた固定資産税とクルマの維持費の20万円を加えて計220万円とします。
60歳以降、パート勤務に移行して、月収が手取りで15万円なら年間40万円の赤字。公的年金の受給開始となる65歳までの5年間で200万円、老後資金を取り崩すことになります。パート収入が月10万円なら、500万円を引き出さなくてはいけません。さらに、今後2回はクルマの買い替えも発生するでしょう。
公的年金の受給額は不明ですが、いただいたデータから、およそ手取り額は10万円前後ではないでしょうか。引き続き65歳以降もパートを継続するものの、ペースを月10万円に落とします。それでも、生活費は一時的に黒字となりますが、いずれ収入は年金だけとなることは避けられません。仮に70歳から年金生活とすると、そのとき、多めに見積もって(60歳からの5年間はパート収入が月15万円程度、クルマ2回買い替え)老後資金の残りは1360万円ほど。計算上、84歳まで老後資金はもつことになります。
アドバイス2 保険料も保障も過大な保険の見直しは必須
教育費と奨学金等を除くと、家計収支が現時点で赤字であること。これは、今後、老後を迎えるにあたり、やはりリスクとなります。支出を減らして少なくとも赤字は解消したいところです。そうなると、ご相談のひとつでもある保険について、その見直しは必須となります。苺さんが言われるように、保険料コストも保障もともに過大だからです。ただし、すでに一括で保険料を支払っているものは、まず、ご本人の保障ですが、もし万が一のことがあっても、教育費と持ち家は確保されますので、保険料2100円の医療共済だけを残して、あとは解約します。長女の方も同様の医療共済、次女の方は医療保険だけにします。これで月1万8000円ほど、保険料コストが節約できます。結果、60歳の時点で保険料は約240万円、70歳までに約450万円節約できます。
ちなみに、ご長女が社会人になったら生活費を入れてくれるとのことですが、今後を試算する上では考慮しない方がいいと考えます。いつまで継続できるかは不確定ですし、仮に生活費を入れてくれた分は、余裕資金としてキープしておけばいいでしょう。
アドバイス3 ポイントは現状の収入アップか60歳以降のパート収入
したがって、最初のご質問の回答になりますが、現状の収入のまま老後を迎えることは、84歳で老後資金が足りなくなるわけですから、少なからずリスクはあります。先の試算は、60~65歳までの5年間、月収15万円のパート収入を継続して得るという前提です。これが平均10万円とすれば、5年間で300万円の減収ですから、保険を見直したとしても70歳のときに資金は1500万円ほど。老後の予備費(医療費など)も考えると90歳を前に老後資金はなくなってしまいます。
したがって、60歳からの10年間の収入が苺さんの老後を大きく左右すると言えるでしょう。しかも11年も先のこと。より不確実性は増します。
そうなると、現状での収入アップが確実に効果を発揮します。実際、転職活動をされ、なかなか結果が出ないとのこと。それにより、転職を諦めてしまう気持ちも十分理解できます。それでも、無理のない範囲で転職活動は続けてほしいと思います。
さらに言うなら、現在の職場環境も決して望ましいものではないようです。「どこも似たようなものでは」という思いもあるでしょう。だとしても、現状を変える行動をする価値はあるのではないでしょうか。
もうひとつのご相談である住宅ローンの借り換えについてですが、すべきではないでしょう。間違いなく、今後のマネープランを苦しくしている原因のひとつは、毎月の返済額は多くはないですが、それでも80歳まで続く住宅ローンです。ローンの支払い総額は手数料を含めても、借り換えした方が有利かもしれません。それでも、苺さんのコメントにもあるように、手数料の発生は今の家計には負担が大きいです。
今、苺さんの家計にとってもっとも必要なものは現金です。一時的でも、まとまった額の現金が減ることは避けなくてはいけません。同じ理由で、繰り上げ返済も一部であっても、することのリスクの方が大きいでしょう。
また、2024年からの新NISAでのつみたては控えてください。現状、投資リスクも取れないと思います。
ともあれ、老後資金についてはそれなりのリスクがあり、その改善策として、保険の見直しは必須です。加えて、転職による収入アップか、60歳以降の継続的な一定額以上のパート収入の確保。そのためには健康管理も欠かせないでしょう。お子さんたちの存在、ともに暮らす時間も苺さんの活力になるはずです。
また状況が変わり、いろいろご心配が出てくれば、再びご相談いただければと思います。
相談者「苺」さんから寄せられた感想
深野先生、今回はマネープランクリニックによる診断、ありがとうございます。自分ではこの先何とかなるかな?保険をいくつか解約すればこの先生活できるかな?と甘い考えでおりました。それが、はっきりと甘い考えだったとわかり、正直がくぜんとしました。が、なぜか「よし! また頑張ろう! 転職活動して、保険見直しして、離婚したとき以上に頑張ろう!」とやる気になってきてもおります!
今回、深野先生のマネー診断を受けたことをきっかけに、今後さらに人生をたくましく楽しく過ごそうと思います。また診断をお願いする機会がありましたら、よろしくお願いいたします。
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教えてくれたのは……
深野 康彦さん
マネープランクリニックでもおなじみのベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金まわり全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。著作に『55歳からはじめる長い人生後半戦のお金の習慣』(明日香出版社)、『あなたの毎月分配型投資信託がいよいよ危ない!』(ダイヤモンド社)など
取材・文/清水京武