暮らしのお金

中学受験の激化、塾通いの低年齢化「椅子取りゲームで幸せになる人はいない」金融教育家・田内学

都市部で過熱する受験戦争にわが子を投じることに葛藤を抱く親も多いことでしょう。子どもの幸せのために親ができることは一体何でしょうか? 金融教育家でベストセラー作家であり、自ら子育て中の田内学さんに話を聞きました。

執筆者:All About 編集部

受験戦争

都市部で過熱する受験戦争。子どもの幸せのために親ができることとは?

少子化にもかかわらず、都市部では中学受験が激化し、塾通いの低年齢化が進んでいます。過熱する受験戦争にわが子を投じることに葛藤を抱く親も多いことでしょう。子どもの幸せのために親ができることは一体何でしょうか? 金融教育家でベストセラー作家であり、自ら子育て中の田内学さんに話を聞きました。

中卒そば屋の父の期待を背負って気づいたこと

――お父様に「東大を目指せ」と言われて灘中学に入り、東大、ゴールドマン・サックス……とエリートの道を歩まれた田内さんですが、お子さんの進路についてどのような考えをお持ちですか。

田内学さん(以下、田内さん):父親はそば屋を営んでおり、彼の仕事には尊敬の念を持っています。ただ、父親は中卒で自分が会社で働くことが難しく苦労した経験があったから、私に同じ思いをさせたくないという気持ちがあったようです。他の選択肢もある中で「この仕事がいい」と思って選ぶのであれば、どんな仕事でもよいでしょう。一方で、自分の子どもが「この仕事しか選べない」という状況に陥るのは、親として避けてあげたいですよね。

ただし、進路を選ぶ上で人生における大事なものを見失ってはいけません。例えば、私が書いた『きみのお金は誰のため』(東洋経済新報社)の主人公は、年収の高い仕事に就きたいと考えています。世間でもそういう考えを持った人は多いでしょう。でも、それを応援してくれるのは、子どもを溺愛している親ぐらい。そんな中で、他人と差別化を図って勝ち抜けるのは非常に難しい。それよりも周囲が協力してくれるような目標を持った方がいい。

お金は道具に過ぎません。私は子どもたちに講演をする時にも「仲間だけでできることには限りがあるから、外側の人たちに協力を求める時にお金が必要になる。誰とでも仲良くなれれば、お金はさほど必要ない」と伝えています。将来を考えるにあたって、まずは仲間を増やすことが大事なのです。
田内学さん

元ゴールドマン・サックスの金利トレーダーで金融教育家の田内学さん(本人提供)

子どもの幸せのために親ができること

――昨今の中学受験の激化や塾通いの低年齢化については、どのようにご覧になっていますか。

田内さん:親としては、限られた椅子に座ることを目指す教育をやってしまいがち。でもそれは、椅子の数が限られているがゆえに、他人を蹴落として勝つための教育です。多くの人がその努力をすればするほど、競争は過熱します。

本来の目的は、「椅子に座らせること」ではなく、子どもたちが「幸せになること」でしょう。「椅子に座らせる」教育をするのも致し方ないですが、同時に、椅子の数を増やすことや見えない椅子を見つけてあげる努力をすることも大事ではないでしょうか。自分の子どもや周りだけ見ていると、そういうことに気づかないものです。でも視点を変えて、社会全体を見渡すと子どもの幸せのために親としてできることが他に見つかると思います。

「社会のため」は「私たちのため」

――大人たちが、現状を変える意識を持つことが大事なのでしょうか。

田内さん:日本財団がアメリカ、イギリス、中国、韓国、インド、日本の6カ国を対象に「18歳意識調査」を定期的に行っています。2022年に行われた同調査において、日本は「自分と社会の関わり」についての質問で「自分の行動で、国や社会を変えられると思う」と回答した18歳は3割に満たず、他国に比べて圧倒的に低い結果となりました。18歳に限らず、大人も含めて「社会は変えられないものだ」と思い込んでいる人が多いのではないでしょうか。

この状況を解決するには、自分の住んでいる場所や身近なところに「どのような問題があるか」と考え、思考を深めていく必要があります。その点を踏まえて、私は高校教科書の「公共」という科目を執筆しました。ただ、従来の知識詰め込み型の教育ではないので、先生にとって生徒を評価することが難しいようでした。先生たち自身、生徒の指導以外にもやるべきことが多く、先生の過重労働や、なり手不足も問題になっています。

でも、生徒たちに地元の抱える問題に取り組ませる教育を行っている地域では、生徒のうち5割以上が「自分の行動で国や社会を変えられると思う」と回答したそうです。なので、教育を変える必要もありますし、そのためには教員の労働環境や人材不足など、さまざまな問題が改善されなければいけません。

「社会のため」と言うと「他人のため」だと思われがちです。でも実際は、「私たちのため」なのです。自分と社会が密接につながっているということを、より多くの方々に知っていただきたいと思います。

<取材・文/秋山志緒>
   
田内学氏の著書

田内学さんの新刊『きみのお金は誰のため ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」』(東洋経済新報社)

教えてくれたのは……田内 学さん
金融教育家
1978年生まれ。東京大学工学部卒業。同大学大学院情報理工学系研究科修士課程修了。2003年ゴールドマン・サックス証券株式会社入社。以後16年間、日本国債、円金利デリバティブ、長期為替などのトレーディングに従事。日本銀行による金利指標改革にも携わる。2019年に退職してからは、作家エージェント会社コルクの佐渡島庸平氏のもとで修行し、執筆活動を始める。著書に『きみのお金は誰のため ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」 』(東洋経済新報社)、『お金のむこうに人がいる 』(ダイヤモンド社)などがある。お金の向こう研究所代表。社会的金融教育家として、学生・社会人向けにお金についての講演なども行う。

秋山 志緒
大阪府出身。外資系金融機関で広報業務に従事した後に、フリーのライター・編集者として独立。マネー分野を得意としながらも、ライフやエンタメなど幅広く執筆中。ファイナンシャルプランナー(AFP)。X(旧Twitter):@COstyle 
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