女性上司だからダメというわけじゃない
「その上司は1年で転勤しました。もちろん、男性上司がよくて女性上司が悪いというわけではなくて、その人の人間性なんですよ。もっと親しくなってからだったら話せたかもしれないけど、子どもがいる人いない人、結婚している人していない人というカテゴライズが不愉快、しかもその理由を着任したばかりのよく知らない上司に話したいわけがないですよね。『あなたに私の人生の何がわかるんだ、そんなことで親近感は生まれない』と直接言った同僚もいます。よく言ったとみんなで拍手喝采でした」人との距離の詰め方の問題なのかもしれない。上司としては早く部下のことを知りたかったのかもしれない。だが拙速すぎるし踏み込みすぎる。職場は仕事をする場なのだから。
男性だって悩む、職場のハラスメント発言
一方、男性も子どもについて職場で聞かれることは多々あると言う。「僕は結婚した当時から、もともと子どもはどちらでもいいと思っていました。結婚式でスピーチした上司は子どもについて言及したけど、そこは聞き流した。でも2年ほどたったとき『子どもはまだなのか』と言われて」
アキラさん(39歳)はそう言って苦笑する。結婚式に招待した上司だからといって、2年もたってから子どもの話をする必要はないだろうと思ったそうだ。
「その上司が言ったんです。『子どもさえ持てないなんて、男としても人としても失格だぞ』と。すぐ近くにいた先輩が顔を曇らせていました。彼は子どもがいないまま離婚したばかりだったから。周りの雰囲気が一気に悪くなったのに上司は気づきませんでしたね。この人はダメだと思った。周りもみんなそう思ったようです」
「どうせポンコツだよ」と傷ついた
言われたアキラさんも傷ついた。というのも、結婚当初、子どもはいらないと言っていた妻が、30代半ばになってやはりほしいと言いだし、ふたりで検査を受けたら彼のほうに問題が見つかったばかりだったからだ。「それはもちろん誰にも言っていませんが、男として失格という言葉がグサッときました。どうせオレはポンコツだよと。誰もが子どもをもてるわけじゃないということをあの上司は想像もしていなかったんでしょうけどね」
自分が「普通」だと思っていることが、他人にとっても「普通」とは限らない。そもそも「普通」なんてないのだ。それぞれの生き方や、それぞれの事情があるだけなのだから。それを尊重しない限り、多様性などという言葉はきれいごとで終わってしまう。
「それじゃいつまでたっても人との距離が近づかない」という人がいるが、プライベートなことを聞き出せば距離が縮まると思っていること自体が間違いなのではないだろうか。