妻が食事を作らなくなった
戻ってきて、すぐ妻に「第二の新婚時代を楽しもうね」と言ったのだが、妻の反応は思ったほど楽しそうではなかった。「妻は、『私も更年期でつらいの。自分のことはなるべく自分でやってね』と言うんです。以前からそういう状況だったから、わかったと軽く聞いていたんですが、帰宅しても夕飯がないことがしばしば。妻が早く帰ってきていてもそうなんです。『もう食事は作らないということかな』と遠慮しながら聞いてみると、『そうね、期待されても困るかも』って。
それならと自分で作ったり食べてきたりするようにしました。自分で作るときは『今日はオレが作るけど、家で食べる?』と夕方、妻に連絡しておきますが、『いらない』と返ってくることが多いので、いつの間にか尋ねなくなりました」
洗濯やゴミ出しなどは気づいたほうがやる。話し合いもないまま、なんとなくそういう流れになっている。
妻は現状を踏まえた家計の見直しには応じない
「経済的にはもともと僕のほうが少し給料が高いので、以前から生活費を多めに出していました。僕が家のローンを、彼女が光熱費を払っているのも変わりない。でも考えたら食費は出さなくてもいいのではと思って、家計を見直そうと言ったんです。ただ、妻はそういう話し合いには応じようとしない」会話がないわけではない。夜更けにふたりでDVDを観ることもある。だが家事分担と家計についての話し合いは妻が避けている。それを持ち出すと「明日にして」と自室にこもってしまうこともあった。
週末も妻は「今日は友だちに会うから」と出かけてしまう。家にいても自室から出てこない。
あるときふとタカシさんは思った。
「これって事実上の卒婚状態なのか、と。この夏もふたりで旅行でもしようかと声をかけたんですが、妻は『仕事が忙しくて休みがとれない』と。だったら秋になってからでもいいよと言ったら、『秋には友だちとの旅行の予定がある』って。誰と行くんだよ、男じゃないだろうなと冗談で言ってみたんです。そうしたらフッと笑っただけで返事がなかった」
息子に相談すると想定外のアドバイスが……
戸惑ったタカシさんは、思わず長男に相談したという。長男は「おかあさんに恋人? いないと思うよ」と笑いながら言った。ホッとしたタカシさんだが、長男に「おかあさんは結婚生活に疲れてるみたい。ちゃんと希望を聞いてあげたほうがいいよ」と言われた。「単身赴任生活は寂しかったけど、ある意味で自由でした。子育てしながら仕事もしていた妻は本当に大変だったと思う。ほとんど自由がなかったでしょうからね。だから今後は自由を謳歌したいのなら、そう言ってくれればいいんですよ。そうすれば僕はできる限りのことはする。だけど何も話し合わないまま、なし崩しのように家事の多くを僕がやり、一緒に食事もしないような状態はおかしいだろうと思うんです」
長男によれば、「おかあさんは離婚したいわけではないようだ」と言うのだが、タカシさんは、卒婚を強要されているのか離婚になだれ込みたいのか、どちらかだろうと想像している。もしかしたら妻との間に大きな齟齬があるかもしれない。
単身赴任という「働き方」が与える影響
「話し合いって大事ですよね。でも考えたら、妻はずっと僕の単身赴任に合わせて生活してきただけで、きちんと話し合ったことがなかったと思う。今までのことをきちんと謝って今後のことを話したい。もちろん僕だって好きで単身赴任をしていたわけじゃないし、仕事なんだからしかたがないだろうと思ってもいるんですが、妻に大変な思いをさせたことだけは確か。そこを認めて感謝してからでないと話し合いはできないのかもしれないと思い始めたところです」単身赴任はやむを得ないこと。それを今になって謝らなくてはいけないのは、せつない話だ。企業に属していればしかたないのかもしれないが、改めて「働き方」が家庭や個人に与える影響は大きいと考えさせられる。