年の差20歳、上司の娘は僕の妻
タクヤさん(48歳)は、20歳年下のマナさんと6年前に結婚した。42歳と22歳だった。「職場関係から友人、知人までみんなにからかわれました。若い女性と結婚できるまで独身でいたのか?と、言われたこともあります。でも僕、28歳のころから8年間、パートナーと一緒に住んでいたんです。お互いに結婚は望んでいなかっただけ。彼女は仕事が最優先の人だったから、結婚しないならもう別れようと言ったのは僕のほう。当時、彼女は新たな仕事のチャンスをつかもうとしていたから、『あなたとの愛を全うできなくてくやしい』と泣きながら去っていきました。でもその後、仕事が成功しつつあるから、よかったなと思っていたんです」
そんなとき再会したのが20歳年下のマナさんだった。実はマナさんは彼の入社当時の上司の娘だった。マナさんが幼いころに何度か上司の家に遊びに行き、会ったことがあった。
「38歳のころ、もう部署は変わっていたのですが、その上司が定年退職になると聞いたんです。本当にお世話になった人だから、連絡をとったら『久々にうちにおいで』と言ってくれて。伺ったらマナが出てきた。あのときの子がこんな大人になったのかと驚きました。マナがもうじき大学受験だというので、それから少し勉強を見てあげたりしました」
学生時代は家庭教師のアルバイトばかりしていたし、社会人になってからも親戚に頼まれては受験生を見てきたので、彼の家庭教師の腕は衰えていなかった。マナさん自身のがんばりもあって、第一希望の大学に見事合格した。
「学生時代の彼女ともときどき会いました。デートというほどのものではなく、おごってほしいときだけ連絡してくるんですよ。年の離れた妹みたいな感じだった」
彼女の恋愛のことや失恋話を聞く役目もつとめていた。就職活動中はマナさんのためにいろいろ情報収集をした。そして彼女は就職も希望の企業に入ることができた。
「その直後です。彼女が『タクヤ、結婚しようか』って。何を言ってるんだと思いましたが、彼女は真剣だった。実は僕の上司だった彼女の父が重病で余命いくばくもないという。『私はパパが大好き。タクヤはどこかパパに似てるの。パパもタクヤを信頼してる。だから結婚するって言ったら喜んでくれると思う』って。いや、20も年が離れていたら心配するだろと言ったんですが、上司夫婦も15歳くらい年が違うんですって。だから反対はしないと思うとマナは必死でした」
ふたりで上司に会うと、彼は自分の人生の残り時間をわかっていたのだろうか、とても喜んでくれた。上司の前で婚姻届を書いた。
「無理して一緒にならなくていい。これは出さずにおくからと言ったんですが、彼女はどうしても提出するときかなくて」
就職したばかりということもあり、説得して婚姻届は預かっておくことにした。彼女は実家から新入社員として出社。上司はそんな娘をまぶしそうに見つめていたという。
「2年ほどがんばってくれたんですが、上司は静かに旅立ちました。その直前、僕らは婚姻届を提出して名実ともに夫婦になりました。もしかしたら婚姻届を出していないことを上司は気づいていたかもしれない、懸念がないようにしておきたいと思って。ただ、僕らの間では婚姻届を書いた日が結婚した日ということになっています」
おじいちゃん……?
現在、28歳になったマナさんは産休中。かわいい長男をふたりで育てている最中だ。しっかり働いてきて社内の評価も高い彼女には、早く職場に戻ってきてという声もあるという。「息子が中学に入るころには僕は還暦ですからね。おじいちゃんが来たと言われないようにがんばらなければと思っています」
妻はこれから母として、社会人としてどんどん成長していくはず。それが不安の種だけれど、自分もそれに負けずにいくつになっても研鑽を積まなければと思っていると、彼は表情を引き締めた。