地方都市で中古マンションを購入し、つつましく老後生活ができれば理想です
皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。今回のご相談者は、50歳の女性会社員の方。定年まで10年となり、老後の住まいについて悩んでいます。ファイナンシャル・プランナーの深野康彦さんがアドバイスします。老後の住まいについて悩んでいます
しばわんさん
女性/会社員/50歳
神奈川県/借家
■家族構成
1人暮らし
■相談内容
定年まであと10年となり、老後のことをさらに真剣に考えるようになりました。現在の収支を見ていただき、ぜひ、深野先生にご意見をいただければと思い、応募いたしました。
30歳まで、職に恵まれず、非正規雇用続きで厚生年金にはほとんど加入しておりません。30歳から正社員、派遣社員などを経て、現在の会社に40代から勤務しております。65歳までは何らかの形でこのまま都内で働き、その後は地方都市で中古マンションを購入し、つつましく老後生活ができれば理想ですが、そうなると貯蓄がほとんどなくなってしまいそうで、やはり、このまま賃貸暮らしを老後も続けていくほうがよいのか悩んでおります。
実家は地方の交通の便が悪い場所にあるため、自動車を持たなくても、ある程度、生活ができる場所で暮らしたいと思っております。
■家計収支データ ■家計収支データ補足
(1)ボーナスの使い道
メインは貯蓄(定期預金、住宅財形)・予備費で、月々の足らない費用を補っております。余剰金を株式投資に充てております。
(2)投資商品について
勉強と実益を兼ねて、国内株式をメインに購入しており、投信は購入したい時に購入し、積立投信はやっておりません。
(3)家計の収支差
趣味が多く、遠出することがあり、帰省も年2、3回するため、家計収支データは年間の平均額になります。貯蓄も大事ですが、今は働いて収入があるので、体が動くうちにいろいろと経験したいと思っております。
食費は毎日晩酌しており、アルコールも含みます。お昼は弁当持参で外食はほとんどしないですが、食に少しこだわっているため、少し高めです。毎月の不足分はボーナスから補てん。
(4)加入保険について
・医療・がん保険(共済)=年払い。毎月の保険料換算9000円
・傷害総合保険(5年契約で、野外活動、日常生活での事故、怪我の障害保険で、趣味で登山をするので救援者費用等補償付)=毎月の保険料1000円
・終身保険(60歳払込み、60歳時解約返戻金130万円)=年払い。毎月の保険料換算4500円
*保険料も、足りない分はボーナスから補っております。両親が亡くなったあとは、保険関係の見直しをし、死亡保障額を減らしたいと思います。
(5)働き方、退職金などについて
60歳で現在の貯蓄とは別に、退職金300万円、積立年金780万円、住宅財形550万円、終身保険 130万円ぐらいを見込んでおります。60歳定年で、再雇用制度を利用可能ですが、本当は再雇用で働くより早くリタイアしたいのが、本音です。積立年金は会社の制度で、天引きになっております。
(6)公的年金の見込み額
受給予定年金見込額(月額)12万円です。
(7)マンション購入について
マンションの購入価格は、60歳で自分の資産内で、一括購入できそうな額で考えております。
両親がどのくらいの資産を持っているのか、詳しくはまだ聞いておりませんが、借金などはなく、つつましく健やかに持ち家で暮らしております。弟がおり、実家と同じ市内に持ち家を持っております。自分の財産は将来的には、姪が相続することになると思います。
■FP深野康彦の3つのアドバイス
アドバイス1 10年でマンション購入の原資を確実に貯めること
アドバイス2 60歳以降のバイト・パート収入次第で老後資金は変わる
アドバイス3 65歳以降は趣味のお金程度の収入を得られると楽しみが増える
アドバイス1 10年でマンション購入の原資を確実に貯めること
公的年金の受給が始まる65歳になるまで、あと15年あります。現時点で、今後の生活のイメージをされておかれるのは、大変いいことだと思います。特に、中古マンションを購入したいという希望をお持ちであれば、この先10年が非常に大切になってきます。現在の金融資産は690万円です。ここからどれだけ増やせるかでマネープランは変わってきます。いただいた家計データを拝見すると、ムダな出費が多いわけではありませんが、毎月の貯蓄額を引くと毎月1万7500円ほどが赤字となり、ボーナスから補てんしている状態です。まずは、支出を予算化し、赤字をなくすことを心がけてください。
毎月7万5000円の貯蓄とのことですが、赤字分を考慮すると、実際には5万円ほどになります。年間で60万円です。ボーナスからの赤字補てんをやめて、100万円を貯蓄すると決めましょう。これで年間160万円の貯蓄となります。10年で1600万円貯めることが可能となります。60歳時点で、金融資産は合計2290万円ということです。
ここに退職金300万円、積立年金780万円、住宅財形550万円、終身保険の解約返戻金130万円の合計1760万円が加わります。つまり60歳時点での金融資産は4050万円となります。
ここから先は、収入を得るとしても、貯蓄は難しくなりますので、4050万円が中古マンションの購入費用と老後のお金となるわけです。無理な節約は禁物ですが、家計支出をしっかり管理して、10年で少しでも多くの貯蓄を残すことを考えてください。
アドバイス2 60歳以降のバイト・パート収入次第で老後資金は変わる
60歳で中古マンションを購入するとした場合、2200万円が上限となります。購入時にかかる手数料(仲介手数料や登記費用など)、リフォーム費用も含んだ上限額となりますので、リフォーム費用次第ですが、1500万~1800万円ほどの物件となります。希望する地方都市で予算内に収まるか、あらかじめ調べておかれるといいでしょう。ただし、10年後のことなので、その時点で物件価格がどの程度になっているかは、わかりません。場合によっては探すエリアを広げる、変えるということもありうるでしょう。
もし、希望の物件が見つかったとし、上限2200万円で一括購入した場合、残りの金融資産は1720万円となります。60歳以降も働く意向はお持ちのようなので、ぜひ、少しでも多く収入が得られるような働き方を目指してください。
仮に、毎月手取り10万円ほどの収入が得られると年間で120万円。一方支出は、住居費が減らせますので、現状よりは少なくなります。マンションだと維持費(固定資産税、修繕積立金、管理費)がかかり、毎月3万円と見込むと現状から6万円は浮かせることができ、毎月の支出は12万7500円となります。年間153万円で少し余裕を見て160万円とします。
収支差は40万円あり、60歳から65歳までの5年間で200万円は金融資産から取り崩すことになります。65歳時点での金融資産は1520万円ということです。
もちろん、手取り10万円以上の収入があれば、その分、金融資産の取り崩しは減り、老後資金として残せることになります。中古マンションを購入する際は、その近隣でどの程度の収入が得られそうか、併せて検討しておくといいでしょう。
アドバイス3 65歳以降は趣味のお金程度の収入を得られると楽しみが増える
65歳からは公的年金の受給が始まります。現時点での見込み額のままだとすると年額144万円で手取りは125万円ほどだと思われます。このとき、支出が変わらないとすれば、年間160万円で、不足分は35万円となります。65歳時点での金融資産は1520万円ですから、単純計算でゼロになるのは43年後、つまり108歳です。大きな出費がない限り、金銭的に困ることはないと言っていいでしょう。計算上、現在、会社で積み立てている年金は今後10年で積み上がりますから、その分も含めれば、もう少しゆとりのある生活をしても大丈夫でしょう。もし健康に問題がなければ、65歳以降も、月5万円ほどの収入を得ると、その分を趣味のために使うこともできます。
当面は、マンション購入を実現させるために、この10年、しっかりと貯蓄をなさってください。
最後に、保険について。現状のままでも大丈夫ですが、終身保険は現時点で払い済みにする、という選択もあります。今後の保険料支払いがなくなれば、その分を貯蓄に回せます。計算では解約返戻金の130万円を加算していますが、解約返戻金が減っても、将来的な老後資金に大きな影響はありません。現時点でも保険料支払いの不足分をボーナスから支払っているようですから、こうした支出の整理を兼ねて、払い済みも検討してみてください。死亡保障自体は不要なはずですから、医療保障のみ残しておけば十分です。
就職などでご苦労されてこられたようですが、あと10年。どうぞお体を大切にしつつ、希望が叶えられることを願っています。人生、楽しんでくださいね。
相談者「しばわん」さんから寄せられた感想
大変ありがとうございました。1人で悩んでましたので、こちらで、相談させていただき本当に良かったです。深野先生の貴重なアドバイスをもとに無理せず、貯蓄するよう努力します。※マネープランクリニックに相談したい方はコチラのリンクからご応募ください。(相談はすべて無料になります)
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教えてくれたのは……
深野 康彦さん
マネープランクリニックでもおなじみのベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金まわり全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。著作に『55歳からはじめる長い人生後半戦のお金の習慣』(明日香出版社)、『あなたの毎月分配型投資信託がいよいよ危ない!』(ダイヤモンド社)など
取材・文/伊藤加奈子